「柳 美里の「ネット以前、ネット以後」」

ネットと芝居って、似てると思いません?

柳美里、ネットとブログを大いに語る(後編)

バックナンバー

2007年8月21日(火)

1/3ページ

印刷ページ

 前回は、芥川賞作家・柳美里氏が初めて出版したブログ書籍『名づけえぬものに触れて』(日経BP社)をベースに、柳氏とネットの関わりについて語ってもらった(前回の記事はこちら)。今回は、彼女の創作活動の根源でもある演劇にまで話を広げ、ネットを使った表現の可能性について聞いた。

(聞き手は、「日経エンタテインメント!」別冊編集長 小川仁志)

小川:ネットやブログでは、文字数の制限がないのはもちろんのこと、横書きだったりしますよね。純文学作家の柳さんにとって、そういった書式の違いに、違和感は覚えませんでしたか。

柳:特になかったですね。私にとっては、「どこに書くか」というのが非常に大きなウエートを占めていて、例えば「週刊朝日」で連載していた『家族の標本』(朝日新聞社)は3枚弱、毎日の新聞小説だと2枚、「週刊ポスト」の『命』(新潮文庫)は20〜30枚など、書く場所によって文字数が変わるのはもちろんのこと、どういう読者層に向けて書くのかということを、ちゃんと考えてから書き始めていました。

7月に自身初の“ネット発”ノンフィクションを出版した柳美里さん (写真:中川 真理子)

 同じ紙媒体であっても、週刊誌と文芸誌ではおのずと違ってくるものだし、それによって、形式が変わるのは、自然に納得がいきます。だから、ネットにはネットに向いた書き方で、それに合わせて、読者が読みやすいように書ければいいと思っています。

 ちなみに雑誌って、どんなに大部数でも「特定少数」というか、ある程度、読者数が見えているじゃないですか。ネットは「特定多数」で、何かの瞬間にうわっと化けて、10倍20倍の読者がつく可能性がある。そういうのは、雑誌にはない“可能性”ですよね。

小川:確かに。柳さんは、11年ぶりに芝居の公演の実現を目指す過程を描いたブログ連載「青春五月党2007」(ブログ連載はこちら)を始めました。

柳:はい。もともと私は、小説家になる前に芝居をやっていたんです。

 16歳の時に高校を中退し、東由多加(注1)が主宰していたミュージカル劇団「東京キットブラザース」に入団、女優を目指した後、18歳の時に演劇ユニット「青春五月党」を立ち上げ、1996年までの間に10本の芝居を書いています。

注1:東由多加氏は、1980年代に一世風靡したミュージカル劇団「東京キッドブラザース」の主宰者。2000年4月20日、食道ガンのため死去。柳美里氏の長きにわたるパートナーで、柳氏の代表作の1つ『命』には、東氏と過ごした最後の10カ月が克明に記されている。

今考えれば、ひどい鬱状態だったんですね

柳:「名づけえぬものに触れて」を書き始めた2004年から昨年の夏頃まで、ずっと引きこもっていて――今考えれば、ひどい鬱状態だったんですね――という時期が続いていたのですが、『月へのぼったケンタロウくん』(ポプラ社)を書き始めたあたりから、だんだん復調してきたんです。秋頃には、「2007年は5月に執筆活動20年を迎えるし、何か新しいことをやってみたい」という前向きな気持ちになってきました。そこで、今までおつき合いのなかった出版社で仕事ができないかなと。

 以前、「名づけえぬものに触れて」に関して初めてインタビューを申し込んできた日経BP社の平島さんに連絡を取ったところ、彼女の上司が、昔、私の芝居を見てくださっていた小川さんだった。「ネットで連載を」という話になった時……確か、小川さんでしたよね? 「柳さん、もう芝居はやらないんですか」とおっしゃったのは?

小川:そうですね(笑)

柳:お芝居を辞めたわけではなかったのですが、小説の方が忙しくなってしまい、お休みしていたら、10年以上も経っていました。でも、「またやりたいな」という気になっていたところだったので、タイミングがちょうど合ったというか。

小川:ネットという場所で、芝居という題材を描かれることについては、どう思いますか。

芥川賞受賞作『家族シネマ』から10年、
ベストセラー『命』から7年――。

 柳美里さん、初の“ネット発”ノンフィクション『名づけえぬものに触れて』(日経BP社、1575円(税込))が出版されました。

 断筆に近い状態だった2004年1月から翌2005年7月の間、自殺したファン<らばるすさん>やネット上の<名づけえぬ>人々に宛て、ブログだけで語り続けた、超本音の549日間。<らばるすさん>の遺志を受け、仲間と共にホームページを立ち上げた柳美里さんが、ネットユーザーと真摯に向き合いながら、自身の日常を赤裸々に語っています。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



バックナンバー>>一覧

関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント0件受付中
トラックバック
著者プロフィール

柳 美里(ゆう・みり)

柳 美里

1968年生まれ。高校中退後、「東京キッドブラザース」を経て、88年演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞、96年『フルハウス』で野間文芸新人賞、泉鏡花文学賞受賞。翌97年『家族シネマ』で芥川賞受賞。著書に『石に泳ぐ魚』『ゴールドラッシュ』『8月の果て』(すべて新潮文庫)など。私記として『命』『魂』『生』『声』(新潮文庫)の4部作を刊行し、累計120万部のベストセラーに。近著に絵本『月へのぼったケンタロウくん』(ポプラ社)、『黒』(扶桑社)、『山手線内回り』(河出書房新社)。インターネットで「柳美里演劇カムバックサイト青春五月党2007」を連載中。



このコラムについて

柳 美里の「ネット以前、ネット以後」

2007年7月、執筆活動20周年を迎えた芥川賞作家・柳美里が、2004年1月から1年半にかけて公式ホームページで執筆していたブログ日記『名づけえぬものに触れて』を書籍化した。日本の文壇を代表する1人でありながら、フォトログやブログ連載など積極的にネットを活用する柳を通して、ネット時代の文学の変容、ケータイネットの最新事情、さらにはネット社会の知られざる現状に、深く斬り込んでいく。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内