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第10回 櫛や印籠に描かれた北斎の絵

爛熟した文化文政期、贅を尽くした装身具に見られる

  • 内田 千鶴子

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2007年8月23日(木)

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 北斎最大の傑作、大横判錦絵『冨嶽三十六景』のうち、「尾州富士見原」(通称“桶屋の富士”)は、現在の名古屋市中区富士見町方面から当時見えた富士を描いている。

 画面正面に、捩(ね)じり鉢巻、半裸の格好で桶を作る職人をすえ、その異常に大きい円形の桶の中に、遠くに見える三角形の富士の姿がのぞく。

 丘の上に大きな円形の桶と職人、それと遠景に雪を被った小さな富士との対比が、見事な遠近感を表現する。晴れ渡った空がベロ藍と薄紅色に染まり、崖っぷちに生い茂る木々の緑と桶が置かれた場所の黄色との調和が、明るく伸びやかな画面を引き立てている。

 巨大な桶は、八丁味噌を入れる樽だったのだろうか。

葛飾北斎 『冨嶽三十六景』より「尾州富士見原」 東京国立博物館蔵 Image: TNM Image Archives

葛飾北斎 『冨嶽三十六景』より「尾州富士見原」 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives


「桶屋の富士」をあしらった櫛や印籠

 1812(文化9)年、北斎は初心者のための絵手本(えでほん)「略画早指南(りゃくがしきはやおしえ)」で人物や動物などをコンパスと定規を使って円や角を描く方法を図解で示していた。その実例を発展させ、幾何学的構成の「桶屋の富士」を考え出したのではないか。

 このユニークな構図が江戸中期頃の男女がペアで身に付けることがはやった印籠と櫛に蒔絵仕立てでデザインされていた。この櫛と印籠は現在、東京都青梅市柚木町にある「櫛かんざし美術館」に収蔵されている。

 蒔絵とは、漆の樹液の接着力を利用して金粉などを器物に付着させて意匠する技法である。蒔絵の歴史は古く、平安時代前期までさかのぼる。その技法には、漆筆で文様を描き、そこへ金粉を蒔きつける「平蒔絵」、平蒔絵の上にさらに漆を塗り、乾いた後に炭で金粉面まで研ぎ出す「研出蒔絵」そして、蒔絵部分の下地を盛り上げて蒔絵とする「高蒔絵」などがある。

 錦絵「桶屋の富士」を写した蒔絵仕立ての櫛があるという事実は、1985(昭和60年)刊の新潮文庫、芝木好子著「光琳の櫛」で知った。同著は、櫛・かんざし収集に取りつかれた女性のすさまじいまでの情念に焦点を当てた小説である。

 20年ぶりで何かヒントが得られればとの思いで、じっくり読み込んでいくと、小満遠舟(こまえんしゅう)という蒔絵師が桶屋の富士を櫛に仕立てているという個所に出くわした。むろん、本のタイトルにあるように、琳派の巨匠・尾形光琳デザインとされる「鷺文様蒔絵櫛」や、原羊遊斎(はら・ようゆうさい、1768-1845)の「狐の嫁入り」、「梶川」と銘のある「在原業平東下りの図」などの名品の名もでてきた。

 「櫛かんざし美術館」に芝木氏の小説との関係を質問してみると、小説のモデルとなった京都在住の岡崎智予さんが収集した櫛・かんざしなどのコレクション3000点を、1998(平成10)年同館が譲り受け、美術館を設立されたことが分かった。現在、その数4000点近くに達しているという。

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