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【第10回】 2つのオーケストラのための大作

「レコーディングは、率直に言って、たいへんうれしかった」と武満さん

  • 諸石 幸生

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2007年8月31日(金)

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 川口義晴さんが制作した武満徹のアルバムの中で、モニュメンタルな仕事となったのは大作『ジェモー』の収録であろう。オーボエ、トロンボーンそして2つのオーケストラと2人の指揮者のために書かれた空前の大作であり、演奏される機会もきわめて少ない。しかし、川口さんはこの大作を周囲の反対を押し切って収録、高い評価を得ることになった。今回は演奏する側にも、収録する側にも難題を突き付けたこの『ジェモー』収録にまつわるエピソードについてうかがった。


―― 武満さんは自分のオーケストラ曲の収録に立ち会われた時、何か注文と言いますか、おっしゃることはあったんですか。

川口: いや基本的には何もないですね。ただ録音している側としては作曲者の武満さんがそばにいらっしゃるわけだから、一応訊(き)くわけです。「これでいいですか」ってね。そうすると「はい、いいです」。それだけですね(笑)。

―― でも何か言われた方がやりやすいといったことはありませんでしたか。

 そうね。「結構です」と言われてしまうと、次が困りますね。ある時、いつものような反応だったんで、僕は自分の判断で「でも、もう1回録ります」って言ったことがあるんです。音程とか縦の線はきちっとした演奏になっていたけれど、どうもそれがきちっとしすぎていて、面白くない。音楽として生きてないというか、こなれていない。そんなふうに感じたからなんです。それで「もうワンテイク行きますから」と言いましたら、武満さんが笑顔で「そうだよね」ってね。

―― 川口さんと同じような気持ちが胸の奥にはあったんですね。

 うーん、でもね、なんて言うのかな。ただ、作曲家にそれでいいと言われると、リテイクするのに勇気がいりますよね。僕も含めてスタッフたちは武満さんが人間的に好きだったし、現場っていうのはそういうものなんですよね。武満さんがいてくれたらもっとうまくいっていた部分もあるかもしれないし……。亡くなった後、録音した時は、やはり武満さんがそこにいただけで、何かが違っていたということを、みんな感じていました。

猫はなぜか大切なものの上に乗る。川口さんの愛猫ジルが『ジェモー』の楽譜の上で気持ちよくお昼寝。譜面を読み込んでいた川口さんも、仕方なくひと休みだ

猫はなぜか大切なものの上に乗る。川口さんの愛猫ジルが『ジェモー』の楽譜の上で気持ちよくお昼寝。譜面を読み込んでいた川口さんも、仕方なくひと休みだ

同時代の作曲家の作品は理解し合える

―― 『ジェモー』の録音は1994年でしたね。録音に取り掛かる前の準備というのは?

 普通は譜読みから始めるわけですが、『ジェモー』はもう楽譜がこんな大きさですからね(縦52cm、横36cm。譜面の段数で言うと、第1オーケストラが23段、第2が25段。ストラヴィンスキーの『春の祭典』ですら27段)。もちろん事前に、譜面を1つ1つ読んでいきます。鉛筆で印を付けながらね。でも自宅でそうやって読んでいると、猫が楽譜の上に寝込んじゃって読めなくなったり、なかなか集中するのが難しい。でもあの譜面を勉強している間はとても充実していたいい時間でしたね。

 僕は、こう言うのも変ですが、日本人の作品は何の苦労もなく分かるんです。ここはどうしようとか困ることがなくて、分かるんですよ。それは武満作品に限らずです。同時代を生きた人から生まれ出た作品だからなのかな。これがメシアンなんかになると違うかなって思います。結局、僕らがベートーヴェンの譜面を前にしたり、シューマンの譜面を前にしたりすると、いろいろと考えないわけにはいかなくなる。いろんな勉強もしなくちゃ分からないこともある。それでも、ああもやれる、こうもやれる、どっちがベストなんだと悩みます。

 でも武満さんであれ、林光さんであれ、黛敏郎さんの作品であれ、日本人の作品は何も考えなくても分かり、できちゃうんですね。その人なりの語法がどうなっているかだけ、きちんと押さえていればね。

―― 同時代を生きてきた作曲家の作品ならではの分かり合える部分なのでしょうか。空気感のような。

 多分ね。ヴァイオリンの堀米ゆず子さんと武満さんの『遠い呼び声の彼方へ』を録音しましたが、彼女もそんなことを言ってましたね。何も考えなくてできちゃう、ここがどうとか、構造とか考えなくてもね。もちろん作曲家や作品との相性もあると思うけど……。でも時代性ということじゃないのかな。これは本当に不思議ですけどね。

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