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「品格」よりも大事でせう ~『旧かなづかひで書く日本語』
萩野貞樹著 (評:小田嶋隆)

幻冬舎新書、760円(税別)

2007年9月7日(金)

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『旧かなづかひで書く日本語』

旧かなづかひで書く日本語』 萩野貞樹著、幻冬舎新書、760円(税別))

評者の読了時間3時間00分

 旧かなについては、私の世代の者(50歳になる)でも、「うひゃあ」という反応が一般的だと思う。初対面の人間がいきなり和装で現れた感じ。あるいは、訪問したお宅のトイレが和式の、しかも汲み取り便所だった時に感じるみたいな緊張感。今の言葉で言うと「ドン引き」ですね。私自身も同じだ。読んで読めないことはないのだが、やっぱり骨が折れる。まして、生身の文章を旧かなで書かれたりすると、正直、ムッとする。

 ……と、以上が、本書を読む前に私が抱いていた旧かなづかいに対する「偏見」だ。もう少し言うと、当方は、旧かなを使う人々について、「偏屈者」「復古主義者」「国粋鉄砲玉」「気取り屋」「ざあます文化人」「封建人格」ぐらいな感じを抱いていたわけだ。

 撤回する。私は間違っていた。いくつかの偏ったサンプルをもとに、この国の古い言葉づかいと、それを使う人々について誤った認識を抱いていた。申し訳ない。

 本を読んで偏見が是正されるということは、元来、非常に珍しいことだ。というのも、人は、ふつう、自らの偏見を補強する方向でしか本を選ばないものだからだ。

 本書も、仕事でなかったらたぶん読まなかった。自腹で、自分の余暇時間をつぶしながら読むには、ちょっと面倒くさそうな本だから。

 つまり、時には、抵抗のある本も読まねばならない、ということだな。自分の好みだけで本を選んでいてはいけない。他人の薦めや、外部的強制で本を読んでみれば、今回のように「目からウロコが落ちる」という滅多にない機会に遭遇することができる。ありがたいことだ。

旧かなで目からウロコが落ちるわけ

 旧かなづかいが優雅に感じられるのは、別に国粋主義や復古の志のせいではない。著者は「お母さんのやうなもの」と言っているが、なるほど、千年の長きにわたって使われていた言葉なのだから、懐かしくて当たり前なのだ。のみならず、旧かなづかいは、文法的にも極めて合理的であり、無理が無く、しかも、音韻的にも理にかなっている。それもそのはず、理屈に合っていないような文法規則は、歴史の中で「自然に」淘汰されているはずだからだ。

 まさか、と思うかもしれないが、実際に、旧かなの文章を読んでみると、これが思いのほか抵抗なくスラスラ読める……と、書いていて思い出したのだが、私は、実は、教室で古文を習う以前に、旧かなの文章をかなりの量、読みこなしていた。

 私の家は、いわゆる教養が宿っているタイプの家庭ではなかった。だから、本棚には、雑誌の類を除けば、父親が若い頃に買い求めた講談本や、母親が後生大事に持ち込んだ「支那歴史物語」(←戦前の子供向け読み物)みたいな変色した童話があるばかりだった。で、そういう家の子供であった私は、そのあたりのものを読むほかに時間つぶしの手段を持っていなかった、ということなのだが、ともあれ、小学生だった私が、それらの、旧かなで書かれた戦前の書物を苦もなく読みこなしていたことは、やはり事実なのだ。まあ、総ルビではあったが。

 で、私は古文ができた。ほとんどまったく勉強をした自覚がないのに、なぜか、古文だけはいつも良い点を取っていた。子供用に子供向けの本を買い与えることをしなかった両親の貧乏と無関心に感謝せねばならない。いずれにしても、古い時代の文字や大人のための言葉を、子供たちが憶えることをしなかったら、その時点で、日本語は確実に衰退するからだ。

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「「品格」よりも大事でせう ~『旧かなづかひで書く日本語』
萩野貞樹著 (評:小田嶋隆)」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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