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聖域に逃げ込む夫たちへ。『らも 中島らもとの三十五年』

ふたりの女の間で、立ち往生

2007年9月5日(水)

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らも 中島らもとの三十五年

らも 中島らもとの三十五年』中島美代子著、集英社、1400円(税抜き)

 開けた戸を、そのままそっと閉めたくなる。覗いてしまった、戸惑いを覚える。本書の作者は、天才、鬼才、異才と謳われた作家・中島らもの嫁さんだ。

子供が眠ったあとは、毎晩、オートバイで遠出をするようになり、夜通し走り続けて、一年間に二万キロ走ったこともある

 幸せにしてあげると約束した亭主は、仕事の世界に行ったきり、戻ってこず。グレるにも、グレきれない嫁さん。淋しさを紛らせるかのようにバイクを走らせ、リビングには、心のスキマを埋めるヘビやサソリなどのペットがごっそり、小さなジャングルと化していた。

 「中島らもとの三十五年」と副題にあるように、仲睦まじい学生結婚から、酔っ払って階段から転落、52歳にして他界したダンナとの時間を綴った、日記のような本である。

 いまどき、作家は死んでしまったら潮が引くように店頭から本は消えていく。せちがらい時代に、死んで2年になるが、いまも新刊が途切れないことじたい「中島らも」の特異さを象徴している。

「ミー」って誰、「ラモン」って?

 嫁さんが書いた、らもの「もうひとつの顔」に、まず読者は驚かされる。

 「ミー」「ラモン」と呼び合った、1970年代のヒッピー文化を体現するかのような馴れ初め。ぎこちなく「プチュッ」とキスをしたあと、「ごめん」とウブならもに、彼女は「私、誰とでもキスするから」と答えてしまっていた。

 不良気取りの気張った男の子と、奔放ながらヌルいお嬢さんとのレトロな青春映画を見るようで、前半は初々しい。が、青春映画には終わりがある。ミーとラモンの関係は後半、激しく揺れる。読者は、アルコール中毒や鬱病で苦しんでいたことも含めて、中島らもの「光」ばかりを見てきたんだなぁと、嫁の見てきた「影」にふれて思うことだ。

 仕事に慣れるとともに中島はオシャレになっていく。女がいることに、嫁さんは勘付いた。男盛りの中島は、他所の女とやりたい。やってしまう。

 うしろめたさを帳消しにするハラだったのかどうか。あるとき、嫁に、来客とのセックスを強要する。嫁も、中島の言いなりになって、応じてしまう……って!? ぎょぎょっ、である。

 あとになって振り返ってみたときに、夫婦は依存症というか、嫁は、夫が不機嫌になることを恐れ、言いなりになっていたようだ。

 当時、家は、中島が街で拾ってくる「わけのわからない人たち」の溜まり場状態。フーテン外国人の間では「ヘルハウス」と呼ばれていたとか。ご近所からも「ダンナさんはどの人?」と訊かれるほど、人の出入りは激しく、酒盛りとクスリで頭が、ふわふわ。子供のいる家の中でスワッピングまで行われていたという。

 本名・中島裕之が「中島らも」として人気を得るにつれ、モテモテ、女とやり放題。聞きたくもない電話もかかってくる。ねちねち、別れろと迫る、いやがらせである。それを嫁は、ああそうですかと聞き流していく。自分はらもに愛されているという思いがある。

せつないったらない

 たいていのことは、「またか」「つまらん女につかまって」とやりすごしてきたものの、そんな嫁でも切れることはあった。

「ミーさんて、やりたいことないんですか」

 らものマネージャーをしていた、ふっこ(わかぎゑふ)から、主婦をしているだけで満足なのかと問われたときだ。

「やりたいこともうやってるよー。らもと結婚したよ」

「ヘッ!?」

 彼女には、私の言っていることが全然わからなかったようだ。ふっこは受話器を下ろそうとはせず、とりとめもない話を延々として、私はほとんど相槌を打っているだけのようなもの。

 キレながらも、へらへらを装う。そこが嫁の強さであり、弱さでもある。当時、らもとふっこは仕事のパートナーであるとともに、ややこしい仲でもあったらしい。夫の仕事に関わりたい。いちばんの協力者でいたいと思いながら、その座を外の女に占められている。嫁の空威張りが見えて、せつないことこの上ない。いっぽうで、嫁の座は譲らないという覚悟もうかがえる。

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