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休暇は、虫を採る、虫を考える

2007年9月12日(水)

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 六月下旬から七月はじめまで、なんと三週間も休みをとってしまった。インタビューなどという短い仕事ははさまるが、地方に講演に行ったりはしない。久しぶりに考える暇ができた。おかげで「虫と音」の話が勝手に膨らんでしまった。そういう話を証明しようなんて思うと、また仕事が増える。休みがあるのも考えものである。忙しけりゃ、そんなこと、考えないで済むのに。

富士山の北西部、本栖湖から富士川方面へ抜ける峠にて 富士山の北西部、本栖湖から富士川方面へ抜ける峠にて

富士山の北西部、本栖湖から富士川方面へ抜ける峠にて

 休みの間は、気が向いたら、虫採りに出る。行ったことがない近所に行こうか。そう思って、日経BP社の柳瀬さんに運転を頼んで、日帰りで山梨県の下部に行った。富士山の西側である。本栖湖を過ぎると、峠にかかる。なかなか虫がいそうな、雑木の山道である。同じ山並みのなかに毛無山というのがあって、なんと標高二千メートルに近い。こんなところが近くにあったのか。

 カミキリ屋さんに聞くと、下部には妙なものがいるという。その妙なものがこちらは採りたい。キンイロジョウカイがいると、露木繁雄君に聞いた。西のほうに行けば、こんなもの、私だって採れるが、関東では採ったことがない。伊藤弥寿彦に聞いたら、なんとかゴマフ、かんとかゴマフと次々に挙げていって、本州で採れるゴマフカミキリがみんないると教えてくれた(そう聞いたような気がする。なにしろカミキリに興味がないから、すぐに忘れてしまうのである。伊藤さん、間違ってたら、済みません)。

 柳瀬さんは虫は素人だが、進化生物学と環境問題で有名な慶応大学の岸由二教授のお弟子さんである。だから自然環境については、ほとんどプロ。三浦半島の小網代の保全活動のような、神奈川県では重要な環境運動の担い手である。だから虫採りに引っ張り出すと、いろいろ都合がいい。ただの運転手では、相手もつまらないだろうが、私も面白くない。柳瀬さんなら、相手にしてもらえる。そもそもこのコラムができたのは、この人のせいである。

 昨年までは、やっぱり柳瀬さんの仕掛けで、エプソンのコマーシャルをやった。プリンタ・スキャナの「カラリオ」で虫を撮る、というやつである。それがなんと、雑誌広告賞の銀賞というのをとってしまった。そのお祝いというか、ご褒美に、昨年は関係者一同でタイに採集に行った。そうしたらちょうどクーデターに出会った。でも、虫採りにはなんの関係もなかった。こういう仕事がまたないかな。ヤナギの下でドジョウを探しているのである。

細い山道をさかのぼると突然、奥深い山の中に突然立派な橋。でも、ほとんど車が通った気配がありません・・・・

細い山道をさかのぼると突然、奥深い山の中に突然立派な橋。でも、ほとんど車が通った気配がありません・・・・


 七月に入ると、ヒゲボソゾウムシの季節はボチボチ終わりである。それでもガロアヒゲボソ*編集部注:養老さんが捜し求める珍品です)が採れないかという期待がある。富士山の近辺では、この虫はまだ採れていない。富士山自体の標本ならいくつか持っているが、どれもガロアではない。ふつうのコブヒゲボソである。こういう話はオタクでないと通じないのはわかっている。ともあれ出かけて、相変わらず葉っぱを叩いて歩いた。ヒゲボソゾウはたくさん採れたが、ガロアは採れなかった。カントウとケブカトゲアシの二種類が採れたが、ケブカは数が少なかった。しかも雌が多い。雌だと、種の同定がむずかしい。でも時期が遅くなると、雌が多くなるのは仕方がない。

コブヒゲボソゾウムシのカップル。背中に乗っているほうが♂です

コブヒゲボソゾウムシのカップル。背中に乗っているほうが♂です

 昼飯時になったから、甲斐常葉の駅前で昼食をとった。駅前食堂だが、なんとも田舎、五十年前に戻った感じだった。懐かしくてよかったが、呆れもした。なにしろ客が何人かいるのだが、昼だというのに、もうかなり出来上がっている。オバさんが一人混ざっていて、お茶まで出してくれるのだが、これもお客の一人である。このオバさんも、かなり出来上がっていた。店をやっているのは、私よりも十分に年長のジイサンとバアサン。帰りに料金を払ったら、どこから来たかと訊かれて、遠方からの客だからか、何百円か勘定をまけてくれた。虫屋は風体が貧乏臭いから、こういうところでは親切にしてもらえるのであろう。日本は広いとしみじみ思う。近い過去に戻るのなら、タイムマシンはいらない。甲州に行けば済む。

 昼食後は山を越えて、向こう側の富士山麓、朝霧高原に出た。結局、妙な虫は採れなかった。探し方が悪いに違いない。駅前食堂で毒気を抜かれてしまったのかもしれない。

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「休暇は、虫を採る、虫を考える」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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