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季節の終わりはラオスに行って、虫を採ろう その2

~クチブトゾウムシはどこにいる?

2007年9月26日(水)

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 さて、これからどこを探そうか。クチブトゾウがどこにいるか、やっと目鼻がついた。ともあれ砂地狙いである。

 三日目はパクセの街から、ボラヴェン高原へ。ここはラオスの南端に当たり、標高千二百メートルくらいの広い台地である。でも砂地が少なく、なかなかいい場所がない。標高が高いから涼しく、住みやすいから、農家が稠密にあって、コーヒー林がほとんどを占めている。おかげで自然林が少ない。

 車は一台、同行者は四人、私と若原君、若原君の奥さんのソンさんと、ソンさんの弟さん。この人が運転手。若原君の薫陶よろしく、全員が網を振り回して、虫を採る。目のつけどころが違うから、ソンさんと弟さんは、妙なものを採ってくる。弟さんの採集品には、大きなカミキリムシとか、小さいノコギリクワガタが入っている。小さいノコギリクワガタは、大きいのとは別種で、なかなか珍品である。私には不要だけれど、お土産にもって帰ることにする。

 最初に行ったのは、なんとかいう滝である。いちおう観光地ということで、舗装してない駐車場と、周囲に茶店がある。茶店ではランを売っている。このあたりに自生する自然のランだが、じつはこの商売も今日を限りだという。記念すべき日に来たわけである。本日以降は、栽培種のランしか、売ってはいけないことになるそうである。

 とはいえ、客はいない。本当に私たちしかいないのである。おそらくこのあたりはタイからの観光客が来るのだと思うが、タイからラオスに来ても、単に田舎に来ただけだと思う人が多いはずである。タイがさらに経済発展をして、田舎がなくなれば別だが、そうなると今度は、タイ人がアフリカに観光に行ったり、ヨーロッパに行ったりするであろう。虫屋としては、いつまでも発展しない観光地であって欲しい。ボチボチ食えればいいではないか。よそ者は、すぐにそういう無責任なことを考える。

 滝なんか、見る気はない。裏のコーヒー林に入って虫を探す。でも、なかなかいい場所に当たらない。コーヒー林は間に自然の木が混ざっている。ランもコーヒーの木にはすぐに付着する。若原君にそう教わった。若原君は虫だけでなく、ランにも詳しい。

 自然木を残したこういう植林は、保護の観点からは望ましいと思うが、やっぱり植林は植林である。虫は少ない。このあたりの林は、自然林に見えても、入ってみると、古いコーヒー畑だったり、茶畑だったりする。

 滝の場所を離れて、ボロヴェン高原を走っていくうちに、若原君が車中からアベマキの小さな林を見つけた。家畜よけの柵で囲んである農家の裏にある。裏へ抜けるのに、家の人に断って入るが、子どもしかいない。採集が終わってから、お礼にアメ玉を渡す。

農家の柵を越えて、後ろの柵をさらに越えたら、アベマキ幼木の純林でした。そばに川があって、砂地と岩。

農家の柵を越えて、後ろの柵をさらに越えたら、アベマキ幼木の純林でした。そばに川があって、砂地と岩。

 アベマキを叩いてみると、いるは、いるは。小さなクチブトゾウムシがたくさん落ちてくる。全部が同種かどうか、調べてみないとわからない。帰国して確認したら、二種類ついていた。

 三月に中部ラオスで、はるかに立派なアベマキの林を探したときには、一頭も採れなかった。これが虫の困ったところである。いるのか、いないのか、はっきりしろ。そういいたくなる。もっとも地面が赤土だったかどうか、記憶していない。当時はそういうところに関心がなかったから、覚えていないのである。

 この林は、ごく近くを小川が流れている。地面は砂である。クチブトの生息場所の基本ルールに、とりあえず適合している。結局この日は、あとはシイ・カシ類で別な種をわずかに採っただけ。

 帰り際に、足に血がついているのを発見。ヒルである。なぜか私はヒルに好かれる。何人かで採集に行くと、私だけが食われることが多い。私のほうはヒルは大嫌いだが、ヒルが勝手に私を好きだという。ヒルの片思い。

 行儀は悪いが、路上でズボンを脱いで確かめたら、食痕が七つあり、ヒルが五匹出てきた。ヒルの研究なら、材料に困らないのに。ズボンも靴下も血だらけ。パクセのホテルに戻ってから、靴下を洗ったら、全体が赤くなってしまった。血染めの靴下である。

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「季節の終わりはラオスに行って、虫を採ろう その2」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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