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目の前で「自己責任」と言ってみよ~『ルポ最底辺』
生田武志著(評:清田隆之)

ちくま新書、740円(税別)

  • 清田 隆之

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2007年9月26日(水)

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ルポ最底辺 不安定就労と野宿

ルポ最底辺 不安定就労と野宿』生田武志著、ちくま新書、740円(税別)

 本書の舞台である釜ヶ崎(あいりん地区)へは、何度か足を運んだことがある。梅田から約20分、大阪環状線・新今宮駅から歩いてすぐのところにある、「日本最大の寄せ場」と呼ばれる地区だ。

 駅前にある巨大な職安を中心にのびるその街には、道ばたでゴロ寝している“おっちゃん”、昼間から酔ってケンカする者、ゲイの中年カップル、全品80円の自動販売機、1泊1000円前後の「ドヤ」など、よこしまな好奇心を刺激する風景がそこかしこに展開されている。公園の脇では路上賭博が堂々と行われており、ヤクザのお兄さんに誘われて、「半か丁か?」と1時間ほど熱中した。当時大学生だった自分は、この普段の生活では決して味わうことのない体験にわくわくしっぱなしだった。

 そんな「物見遊山」の来訪者の目には、この街が「最底辺」の場所だとは映らなかった。清潔さや便利さという、現代の街に求められる要素はもちろんなかったが、自由気ままに生きる人々の姿は、都会でせかせか働く人々よりも生き生きして見えたからだ。

3年間で3割以上の最低賃金ダウン

 著者である生田武志氏もまた、釜ヶ崎にある種の「刺激」を求めた若者だった。大学2年生のとき、「自分自身と世界との生きた接点が見つけ出せないという現実喪失感に苦しんでいた」著者は、テレビの番組でこの街の存在を知ったという。そこから現在に至るまで20年以上、釜ヶ崎で働き、支援活動に従事し、文字通り地に足をつけてこの街に関わり続けている。

 快適なシティホテルに寝泊まりしながら見物したところで釜ヶ崎の実態は見えてこない。労働者の強烈な体臭が染みついた布団にくるまれ、路上死する野宿者を目の当たりにしながら筆者は釜ヶ崎を見つめ続けた。ここが「最底辺」たるゆえんは、こうすることで初めて見えてくる。

 釜ヶ崎は日雇い労働者の街だ。気ままに働けるといえば聞こえはいいが、企業にとっては単なる「使い捨ての労働力」。抱えているだけでお金がかかる正規雇用者よりもリスクは当然少ない。

 「日雇い」は具体的な労働量に対してのみ賃金が発生する就労形態のため、寄せ場の人々は「仕事の多いときはジャンジャンかき集められ、少ないときは放っておかれる」という使い方をされてしまう。事実、バブル期の90年と崩壊後の93年では、求人数で約半分、最低賃金も日給1万3500円から9000円に激減している。これは正規雇用者ではあり得ない落差だろう。そうやって景気を根底で調整する損な役回りゆえ、彼らは「景気の安全弁」ともいわれているのだ。

 そんな日雇い労働者の資本は体ひとつだ。1トンの鉄材の運搬、150度に熱せられたアスファルトの舗装工事、地上100メートルの足場での命綱なしの作業…それらをすべてわが身ひとつでこなさねばならない。しかも、健康を害せばたちまち収入はゼロになり、持ち金が尽きれば泊まるところすらない「野宿生活者」へと転落してしまう。

コメント9件コメント/レビュー

労働環境について、高度成長期と今との最大の違いは、この本の中でも触れられている通り、派遣や請負という形態が全就労人口の中でかなりの比率を占めるまでになったことだと思う。その手の派遣会社の経営者は超のつく大金持ちになっている一方で、派遣労働者は薄給激務で働く姿は、19世紀イギリスの資本主義社会を髣髴させる。マスコミはもはや反論の出来なくなったコムスンの会長だけをボロクソに叩きまくっていたが、やっていることはどこの業界の派遣会社も同じようなものだ。昔と違い、今は学校を卒業した若者の一定比率は工場派遣のような仕事にしか就けないが、日本社会の勝ち残り・逃げ残り組は「自己責任」という言葉の元に彼らを打ちのめす。椅子取りゲームであぶれた人間は死ねば良いと言っている。これが正常な社会なのだろうか。(2007/09/26)

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労働環境について、高度成長期と今との最大の違いは、この本の中でも触れられている通り、派遣や請負という形態が全就労人口の中でかなりの比率を占めるまでになったことだと思う。その手の派遣会社の経営者は超のつく大金持ちになっている一方で、派遣労働者は薄給激務で働く姿は、19世紀イギリスの資本主義社会を髣髴させる。マスコミはもはや反論の出来なくなったコムスンの会長だけをボロクソに叩きまくっていたが、やっていることはどこの業界の派遣会社も同じようなものだ。昔と違い、今は学校を卒業した若者の一定比率は工場派遣のような仕事にしか就けないが、日本社会の勝ち残り・逃げ残り組は「自己責任」という言葉の元に彼らを打ちのめす。椅子取りゲームであぶれた人間は死ねば良いと言っている。これが正常な社会なのだろうか。(2007/09/26)

既に定年退職し、(日本人が勝手に幻想を抱いている)北欧と比べてさえ高い支給額の年金を受け取りながら悠々自適に暮らしている層の日本人は、実はこの手の人たちに向かってかなり簡単に「自己責任」と言っていますよ。ちょっと前の就職氷河期の頃、北東北の有効求人倍率は大卒を含めてさえ3割以下でしたが、その手の人たちは「近頃の若い人間は我慢が足りない」だの「努力が足りない」だのの大合唱でしたから。無自覚な傲慢は本当に始末が悪い。今は景気は回復しましたが、高度経済成長の頃と違って増えた雇用の大半は非正規雇用です。まともな雇用の数の絶対数が圧倒的に足りないのに、これも本人の努力不足で片付けられます。(2007/09/26)

格差の問題は、左翼イデオロギーが絡むと途端に解決や議論が難しくなる。でもドヤ街の人々を救おうといった左翼の主張はあまり聞いた記憶が無い・・。記事にイデオロギーのにおいを感じないのはそのためだろうか?ホームレスに住まいをあてがうも喜ばれない場合も多いというが・・。格差や自己責任論とは別に自己決定権の問題も絡むのだろう。ワーキングプアなどの社会問題は、主権者の擬似奴隷化の問題だ。そんなところに人が集まっていて、なおかつ不満が噴出して社会問題になるというのは何かがおかしい。そこで働かないと生存できない学習も出来ないような状況は崩す必要がある・・。出てくるのは生活保護だが、金銭の給付をもって行う今のやり方はやめたほうがいい。基本は生存に必要な物資の現物配給。本当に困っているかどうか、分かり易くなるだろうし抜け出す向上心も促す。(2007/09/26)

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三品 和広 神戸大学教授