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虫やネットが、言葉のない物語を連れてくる

柳美里、養老孟司と語る

2007年10月3日(水)

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 今回は、芥川賞作家・柳美里氏と、解剖学者・養老孟司氏が対談。両氏の共通の趣味である虫の採集を切り口に、人生論や、ネット時代の文学論について語ってもらった。

構成/伊坂鳴葉 協力/日経ビジネス アソシエ

柳:世の人は初恋の想い出などというが、記憶に焼きついて消えないのは、枝にとまったミヤマクワガタなのである、と、養老さんが書いていらっしゃって、全くその通りだなと思いました。

 幼稚園のころ、いつも手の届かないところで鳴いているツクツクボウシが、たまたまちょうど目の高さに止まっていたんですよ。ドキドキ、口から心臓が飛び出そうになりながら近づいていくときの、セミの鳴き声と、鳴いてるときの腹部の動きと、真夏の木洩れ日というのは、今でもドキドキするくらいはっきりと覚えていますね。それ以上鮮やかな光景って、その後ないなぁというくらい。その瞬間は、世界と自分の間に軋みがなかったんですね。

養老:だからやっぱり、そういう人は、世の中で不適合になるんだよね。どうしてもずれが出ちゃう。

柳:いちいち立ち止まって見入ってしまうというか。

養老:人間は、立ち止まって見入ってはいけないんです。

柳美里氏

柳美里氏(写真:鈴木愛子、以下同)

柳:通り過ぎなければいけない(笑)。

養老:子どものころ、クマゼミが捕りたくてね。夏に1回か2回、鳴くんですよ。

柳:ショワショワショワ?って。

養老:そう。それで聞こえた瞬間、そっちの方向に走ってくんだけど、着いたころには当然…。鳴き終えると飛んでっちゃうからね。クソ!って。

柳:クマゼミを捕ろうとして、木からおっこちたことがあります。この木だ!と思って、セミに気づかれないようにそうっと登っていったんだけど、枝が折れて、イターッと。背中から落ちて相当痛かったんですが、親には黙っておきました。

 アオスジアゲハを追って、崖から落ちたこともありますよ。あぁぁーーっ!って(笑)。

 今も、息子連れで虫捕りに行くんですが、虫を見ると「今、ママにしゃべりかけないで! ちょっと離れてて!」みたいになっちゃって、親子で遊びながらという風にはなれないんですよ。虫見つけた瞬間、もう虫しか見えてませんからね(笑)。

養老:困ったもんだよ。

柳:今は、虫に触れなくてお箸でつまむ、という子も多いみたいです。砂遊びや泥遊びができない子も、幼稚園にけっこういるんですよ。母親が、手や服や靴が汚れるのを嫌がるんですね。

養老:どこにいりゃいいのよ、子どもは。

養老孟司氏

養老孟司氏

柳:子どもは、見て、触って、また見る、ということで世界との関わりを持っていくのに。生きてるものは捕まえたいし、死体だったら拾ってみたい。ウジムシがわいてたら、じーっと顔を近づけて、ウジがうごめく様を見る。

養老:そういうことが全然ない人って、どうなるのかな。

柳:養老さんの本(注)の最後にある「“違う”を感じ、“同じ”を見つける、を繰り返すということ、それこそが“生きる”ということに他ならないのである」という一節を読んで、激しく同意しました。一匹の虫を目で見て、手で触る。二匹目の虫を捕え、何かが違うという感覚で眺める。違いが見えてくる。何が同じだろうかと考える。そして三匹、四匹、五匹と捕まえ、見ることと触ることを繰り返す。見つめることと、触ることの機会が失われれば、“違う”を感じることや“同じ”を見つけることが困難になります。流れてくる情報を事実だと勘違いして、見たことや触ったこともないのに、“同じ”あるいは“違う”と決めつける、という事態に陥ってしまう。

養老:だから僕、最近思うんだけど、生きる実感を持ってる人って、本当にいるのかな?

 多田富雄さんの『寡黙なる巨人』という本を読んだばっかりでね。脳梗塞になって、左手しか動かないし、口がきけない。でも、次第に回復してきているものが、ひとつだけあると書いているんですね。それが、自分が生きていることの実感なんだと。病気になる前から、ひょっとすると病気の予兆があった。生きている実感が、なくなっていたというんです。つまり、元気だった時代の方が、病気だったんじゃないかと。

 そういう人が、非常に多いんじゃないかという気がするな。ほとんど死んでるんだけど、それに気がついてないというね。それをまともな生き方だと思っている。

柳:そうですね。人でも、人以外の生き物でも、物体でも、出来事でも、まず足を止めて、自分の目で見て、自分の手で触る、ということからはじめないと。

注1:『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』(日経BP社)。養老氏が、自ら家庭用スキャナを駆使して、貴重なコレクションを「撮影」してつくった、文字通り手作りの昆虫図鑑。自然と博物学と科学と人生に関するエッセイも収録。

芥川賞受賞作『家族シネマ』から10年、
ベストセラー『命』から7年――。

 柳美里さん、初の“ネット発”ノンフィクション『名づけえぬものに触れて』(日経BP社、1575円(税込))が出版されました。

 断筆に近い状態だった2004年1月から翌2005年7月の間、自殺したファン<らばるすさん>やネット上の<名づけえぬ>人々に宛て、ブログだけで語り続けた、超本音の549日間。<らばるすさん>の遺志を受け、仲間と共にホームページを立ち上げた柳美里さんが、ネットユーザーと真摯に向き合いながら、自身の日常を赤裸々に語っています。

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