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(12)福田首相、住宅政策にご注意!

  • 山岡 淳一郎

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2007年10月9日(火)

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 内政重視型の福田新政権が発足した。「政治とカネ」「年金・医療・福祉」「子育て支援」「格差対応」などメディアを賑わせる話題が注目されがちだが、福田首相の内政上の「隠し球」は、ズバリ住宅政策である。10月1日の所信表明演説では「住」に2度も、言及した。約6900字の演説稿のうち「住」関連に300字以上を費やしている。

 これは近年の首相演説の中では異例だ。福田首相の住宅政策への「やる気」が感じられる。ちなみに昨年9月の安倍首相の所信表明演説では、世間を震撼させた耐震偽装事件の発生から1年も経たず、まだ偽装物件が告発される雲行きだったにもかかわらず、住宅や建築に触れた個所はなし。むしろ避けている感すらあった。ライブトーク官邸だのカントリーアイデンティティーだのと借り物の横文字が虚しく並ぶばかりだった。

 それに比べれば、福田首相の「やる気」は、一見、頼もしく映る。

国交省の手のひらで踊る福田首相

 が、しかし、演説稿をじっくり読むと、国土交通省の官僚の手のひらの上で立ち回らされている構図が鮮明になってくる。権益の拡大を狙う役人のスキームに乗っている。

 演説から具体的に指摘しよう。「国民の安全・安心を重視」するとして、福田首相は次のように述べた。

「国民生活に大きな不安をもたらした耐震偽装問題の発生を受け、安全・安心な住生活への転換を図る法改正が行われました。成熟した先進国となった我が国においては、生産第一という思考から、国民の安全・安心が重視されなければならないという時代になったと認識すべきです」

 ご説ごもっともである。だが、このコラムの緊急提言(現場知らずの「耐震偽装対策」が招く危機)で指摘したように、建築確認の厳格化という名の法改正は「安全・安心な住生活への転換」とは逆方向に暴走している。

新設住宅着工戸数

出所:国土交通省

 建築設計の現場は、山のような書類作成に忙殺され、肝心の設計活動に労力を割けない。確認作業に時間ばかりかかり、工期がどんどん圧迫されている。ついに8月の新設住宅着工戸数は、前年同月比でマイナス43.3%と激減。新築マンションに至っては21都道府県で着工ゼロ。福田首相のお膝元の群馬県では、新制度が始まった6月20日から2か月半ちかく経って、ようやく「構造計算適合性判定」を経由した確認済第一号が出たようだ。

 さすがに国交省も慌てて「建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律の円滑な運用について」(9月25日付)という「技術的助言」を出した。厳格化した規制を「建築主等に無用の負担を強いることのないよう適切な運用を」と臆面もなく緩める方向だ。

 国交省事務次官は「手続きに不慣れであっただけで、手を打っているのでまもなく適正化される」とコメントした。だが、現状はそう簡単に適正化される状態ではない。根本的に、実践的能力の低い審査員(行政の建築主事など)が能力の高い構造設計士の設計を審査するという、中学生が大学生の答案の採点を行うに等しい構図を改めない限り、混乱は収まらない。設計、建設側が、レベルの低い審査員向け解説書なりを作成し、確認の長期化を前提とした生産体制を組むのにはまだ時間がかかる。

 国交省は、ただでさえ経営が苦しい地方の設計事務所、建設会社がバタバタ倒れ始めたら、事態の深刻さに気づくのだろうか。書類審査で締め付けを行う方法は、総体的な安全性確保の面で逆効果だ。

 建築構造の専門家たちも、今回の法改正への反論、見直しの声を上げ始めた。東京大学の神田順教授が代表を務める「建築基本法制定準備会」は、「基準法改悪」と表明。国交省、衆参両院国土交通委員会に要望書を提出した。その中で施行令や告示に基づく法適合性が、技術的、科学的な建物の安全性と乖離している、と指摘し、「膨大、複雑、難解となった建築基準法を原点から見直し、建築の理念と関係者の責務を明確にする建築基本法を制定し、そのもとで新たな法整備を長期的視点で進める方向」が重要だと説く。

「数十キロの看板で、数万トンの建築物を再構造計算」

 建築基本法制定準備会が、建築構造士1146人を対象に行ったアンケートでは、設計の第一線で安全を預かる実務者の赤裸々な意見が寄せられた。

「(国は)書類申請の手続きこそが構造設計の神髄であるとする第2、第3の偽装建築士を養成しようとしている」

「全体的な構造の安全性よりも、ささいな荷重のあるなしに焦点が絞られている。現状では整形のラーメン構造以外は、怖すぎて構造設計上の判断ができない」

「国交省は何の責任も取らずに他に転嫁している」

「数万トンの既存建築物に数十キロの看板を取りつけるのに(行政の建築主事から)『荷重増につき構造計算をやり直せ』とのご指導。7ケタの数字の意味を理解してもらい、『勝手にしろ』と言ってもらうまで、どれだけの労力をかければいいのか」

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