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読まずに死ねるかドストエフスキー~『「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する』
亀山郁夫著(評:山本貴光+吉川浩満)

光文社新書、780円(税別)

  • 山本 貴光, 吉川 浩満

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2007年10月11日(木)

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評者の読了時間2時間30分

「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する

「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する』亀山郁夫著、光文社新書、780円(税別)

 誰が言ったか忘れたが、「これからミステリを書くつもりならアガサ・クリスティは読まないほうがいい」らしい。要するに、たいていのトリックはクリスティが書いてしまっているから、読めば読むほど書く気も失せるだろうというわけだ。

 これをもじって言えば、これから小説を書くつもりならドストエフスキーだけは読まないほうがいい。いや、こう言おうか。今後ともお気に入りの作家を安心して楽しみたいなら、けっしてドストエフスキーだけは読んではいけない。凡百の小説は、彼の前で色あせてしまうだろうから。とりわけ『カラマーゾフの兄弟』はいけない。

 それでも興味を惹かれてしまったあなたにはこう申し上げたい。「ロシア文学の最高傑作」だなんて重々しい看板に尻込みし、こんなにサーヴィス精神旺盛で身につまされるネタが満載のエンターテインメント小説を読まずに死ぬのは誠にもったいない、と。

 ミモフタモナイことを言えばこの小説、カラマーゾフ親子(父+三人の異母兄弟)が「金」と「女」と「神さま」をめぐって繰り広げるバカバカしいまでのドタバタ劇である。

 主軸となるのは、鼻持ちならない金持ちエロ爺さんである「父」と一人の女をとりあうダメ「長男」の確執。そこに、長男の(左記とは別の)恋人に横恋慕するインテリ「次男」、父や兄の言動に気を揉むキリスト者のマジメな「三男」以下老若男女が絡み合う。ところがある日、爺さんが殺された挙句に大金が盗まれるという事件がもちあがる。どう見ても犯人はアイツしかいない。

 だが、ドストエフスキーは殺人の直前まで実に丹念な筆運びで描いておきながら、いざその瞬間だけを読者の目から隠してしまう。すごいおあずけ。果たして下手人は誰なのか。登場人物たち(と読者)の思いが入り乱れるなか、決着は法廷にもちこまれる。

 と、下手な要約をしてみても詮無いが、この殺人ミステリ+家族ドラマ+恋愛ドラマ+法廷ドラマ+宗教ドラマのすさまじさの一端なりを垣間見ていただけたら幸いだ。

小説ではないのに、続編

 さて、本書である。『カラマーゾフの兄弟』の続編?

 そう、じつはこの小説、未完なのである。小説の冒頭に置かれた「著者より」という小文を読むと、これは二部作のうちの第一作だと断ってある。しかし『カラマーゾフの兄弟』を上梓してほどなくドストエフスキーは他界してしまい、第二作はとうとう書かれずに終わった。そんな殺生な。

 未完成作品の続編といえば、漱石の『明暗』を書き継いだ水村美苗の『続明暗』や、チャンドラーの遺稿をロバート・B・パーカーが補完した『プードル・スプリングス物語』などが思い出される。しかし、本書は小説ではない。第一作や関係者の証言など、さまざまな証拠や資料を動員しながら、ありえたかもしれない第二作のプロット案を具体的に章立てのレヴェルまで「空想」したものだ。

 それはどんな内容か。

 第一作のモチーフは父親殺しだが、その13年後に舞台を移した第二作ではさらに話が大きくなって、皇帝暗殺が描かれる予定だったという。物騒な。しかし現実はさらに物騒だった。

 本書174ページ以下の年表を見ると、そこにはドストエフスキーの言動と平行して、同時代に生じた数々の皇帝暗殺未遂事件が記録されている。19世紀後半のロシアでは、皇帝アレクサンドル2世の命を狙う革命家によるテロルの嵐が吹き荒れていたのだった。

 だがここには大きな問題がある。いくら自由な想像を売り物にする小説家とはいえ、なんでも書けるわけではない。ネタのきわどさもさることながら、ドストエフスキーにはかつて革命を企てて死刑宣告を受けた「前科」がある。恩赦で釈放になったはよかったが、以後絶えず秘密警察に監視され、作品や手紙は検閲を受けるはめになる。危険人物扱いだ。

 そんな状況で、どうやって皇帝暗殺の小説を書こうというのか。それに、いったい誰が手を汚すのか。

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