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東南アジアで「普通種」のクチブトゾウムシばかりを集める理由

2007年10月17日(水)

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――東南アジアに出かけては普通種とされるクチブトゾウムシを たくさん採ってくる養老先生。普通、昆虫採集といえば、「珍種」を集めて「どーだ、すごいだろう」とえばるのが相場のはず。そういえば、養老先生は国内でもこれまた普通種のヒゲボソゾウムシばかりを集めています。いったいなぜ普通種にこだわる? 今回は養老先生にその本心を「告白」いただきましょう。

 タイからラオスにかけて、共通にいる普通種のクチブトゾウムシで、まず第一に挙げるべきなのは、Hypomeces squamosus Fabricius 1792 である。ここでは「ヒポメケス」と学名で呼ぶしかない。体長一センチあまり、この類としては大きく、日本のオオアオゾウムシに少し似ている。

 ラオスやタイの平地から低山地にかけて、きわめてふつうに見られる。人工的な環境に強いらしい。道路わきのちょっとした樹木の葉にも、多数いることがある。フタバガキにも、マメにもつく。おそらく食樹はあまり限定されていない。

タイ・チェンマイでこの夏採集してきたヒポメケス

タイ・チェンマイでこの夏採集してきたヒポメケス

同じ時期、ラオスで採集してきたヒポメケス・・・チェンマイ産と色がずいぶん違う

同じ時期、ラオスで採集してきたヒポメケス・・・チェンマイ産と色がずいぶん違う

タイ・コンケンのラワン林にいたヒポメケス

タイ・コンケンのラワン林にいたヒポメケス

 色彩は美しい。どこでも大量に採れるから、プラスティックに封入されて、お土産用のキー・ホールダーにも、ときどき使われている。

 若い個体は全体に黄色い粉をかぶっている。これはやがて剥げてしまう。剥げると下の鱗片が出る。鱗片の色は個体によって緑、赤銅色、紫、灰色の間を変化する。地域によって、どの色が多いか、その頻度が明らかに違う。数十キロ移動すれば、色が違う地域になる可能性が高い。

 緑色の個体がいちばん多いが、ほとんどが紫という場所もある。いろいろな色の個体が混在する地域もある。鱗片も剥げてしまったときの地色は、真っ黒である。

 鱗片の配列も地域で違う。鱗片の配置が異なるためか、ラメのように、一部の鱗片がキラキラ光る個体が多い。でも全体が一様に並んで、ラメ状にならず、のっぺりした感じに見えるものもある。コンケンの個体群は後者がほとんどだった。この両者は見た目がかなり異なるので、別種かもしれないと思うが、まだ確信はない。

 この地域のクチブトゾウムシ相を知るために、まとまった文献は二つしかない。一つは"Fauna of British India" (1916)つまり「英領インドの動物相」のクチブトゾウムシ篇である。ただし著者の G.A.K. Marshall は全体を完成する前に死んだので、インド人のH.R.Pajniが研究を引継ぎ、残ったグループをまとめた本 (Fauna of India, 1990) を出した。それでも全体をカバーしきれていない。あとは個々の文献を調べるしかない。

 題名からわかるように、この二冊はインドを扱っている。ビルマまでは過去の英領インドの範囲だから、タイやラオスを調べる参考にはなるが、むろん不十分である。ただ広域に分布する普通種を調べるには、十分に役に立つ。このヒポメケスがいい例である。マーシャルの記述によると、ヒポメケスの分布はビルマ、カンボジャ、マレー、スマトラ、ジャワ、フィリピン、中国である。

 この属には、もう一つ、よく似た種が知られている。Hypomeces unicolor Weber 1801 である。ただしマーシャルによれば、この二種の区別はあいまいだという。色彩の変異も同じようである。この種の分布範囲はさらに広く、ボルネオ、フローレス、チモールまでだという。

 この二種がたがいに区別がつかないなら同種で、それなら後から付けられた名前がシノニムとなる。日本語でいえば、同物異名である。

 なぜunicolorはシノニム扱いになっていないのか。

 一つは色彩を含めて変異が多いので、全部が同種だという確信がないことであろう。そもそも本種は、色違いの個体がいくつか、新種として記載されてしまった歴史がある。マーシャルはそれらをシノニムとして扱っている。

 もう一つは、名前をつける元になった標本、つまりタイプ標本がはっきりしないのである。マーシャルの時代に、ファブリキウスのタイプはコペンハーゲンにあるとわかっていたが、ウェーバーのほうがわからない。マーシャルはそれがファブリキウスの調べたダールドルフ・コレクションの同じ標本ではないかと示唆している。それならおそらくシノニムである。もちろん二種がコレクションに含まれている可能性は否定できないが。

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「東南アジアで「普通種」のクチブトゾウムシばかりを集める理由」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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