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「みんな」の学校に背を向けて『滝山コミューン一九七四』

~理想の教育を目指した教師たちは何をやったか

2007年11月7日(水)

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滝山コミューン一九七四

滝山コミューン一九七四』原武史、講談社、1700円(税抜き)

 本書を簡単にいうと、ディズニーランドに連れて来られたものの、ミッキーに親近感を抱けなかった子どもの回顧録みたいなものだ。

 現在40代半ばの著者が、30年抱きつづけた、もやもやの正体をつきとめようとする。私的なノンフィクションでありながら、すぐれて普遍的でもある。戦後の民主化教育とは何だったのかの問い直しにもなっているからだ。

 なぜ「みんな」が一体となり盛り上がるほど、馴染めず、さめていたのか。冒頭のミッキーはもちろん比喩で、小学生の著者を苦しめたのは、まとまりのある学級集団づくりに成功した小学校と、それをとりまく空気だった。

 著者を物語るエピソードとして目をひくのは、小学1年生のときのこと。予防注射が必須だったが、父親は予防注射に反対で、これを拒否した。

<教室で先生から、「この中に注射を受けようとしない悪い子が一人いる」と言われたときの激しい胸の動悸を、いまでも思い出すことがある。私が集団を恐れなくなったのは、こうしたわが家独特の教育方針に起因しているかもしれない>

 胸の動悸は「みんな」と「自分」を、幼くして意識させる発端となっていったのだろう。

 本書の舞台となる「1974年」とは、どんな年だったか。社会党や共産党が議席を増やし、保革伯仲の勢い。交通機関を全面ストップさせたゼネストが打たれるなど、いまでは考えられないことだが、労働組合が力を発揮していた。一方で、60年代末の学生たちの反乱やアングラの熱狂は消滅し、「シラケ」といわれる倦怠が世相を覆っていた。暖流と寒流がぶつかっていた時代だった。

 著者が命名した「滝山コミューン」は、東京近郊の多摩地区に誕生したマンモス団地とともに出来た新設校のことで、具体的には一人の新任教師が核となって推し進めた「学級集団づくり」をさしている。「わたしたち」「ぼくたち」の結束を高める。林間学校などの行事、課外活動がそのために活発に展開されていた。

 子ども時代の著者の疑問は、「自主的」「自発的」を標榜しながらも、実際には教師が「指導」という名で「操作」していたことに向けられる。子どもながらにも、うさんくささに反発を覚え、異議を申し立てていくことになる。

「自分より仲間全体を優先させよう」「え」

 本書が、個人の郷愁めいたエッセイの類と異なるのは、固有の体験の掘り下げ方だ。まるでカメラがそこにあったかのように、著者自身がどんな意見を持っていたのかはもちろん、当時の同級生たちの言動についても、30年前の出来事を詳細に再現しようとする。

 教室では「班」単位のグループづくりと、競争が日常のものとなっていた。自我のつよい子だった著者は、なぜ「個」よりも「みんな」が上なのかを疑問に感じていた。

 指導教師の学級運営は、たとえば学校を休むものがいたら班全員で手紙を書いたり、誕生日には文集をつくる。クラス対抗のスポーツ大会では男女が一体となり、統制のきいた声援を送る。と、列記するうち、ワタシの小学校でも似たようなことをしていたなぁと、懐かしくなる。理想的な学級ではないかと、思うのだが。著者はこの「一体」に疑問を抱くのだ。一糸乱れぬまとまりが薄気味悪く思えてならない。これは、日本人が北朝鮮のマスゲームを見る感覚にちかいかもしれない。

 もうひとつの違和感は、班競争が「減点」方式を基本にしていることだ。和を乱し、足を引っ張る行為を相互に監視させ、責任は班のメンバー全員が負う。競争が過熱し、ダメな班と呼ばれたくないばかりに、一人を糾弾することすら生じる。

 これらの学級づくりは一人の教師の発案ではなかった。著者は、大人となった目で、当時の文部省と、これに反発する教師集団との対立の構図など、背景にあった大人社会の綱引きを整理している。

 いったい当時の熱意ある教師たちは「学級づくり」を通して、何を実現しようとしていたのか。著者が紙幅を割いているのが、児童会選挙の模様である。

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