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虫に、なぜ「名前」が必要なのか?

2007年10月24日(水)

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 伊藤さんからメールが来て、蕎麦粒山にセダカとタニグチを採りに行ったと書いてあった。

 両方ともコブヤハズカミキリのことである。このカミキリは夏にもいるが、秋に葉っぱを叩いて捕まえるのが、いまでは正統のやり方である。

 メールにはさらに「秋の虫採りはどうしてますか」ともある。どうもこうもない。夏に採った虫を標本にする、その標本を見る、その二つだけである。葉っぱを食べるゾウムシは、秋には少なくなるからである。ひょっとすると、秋に多いゾウムシもいるかもしれない。でもそれなら、伊藤さんが採ってくれるに違いない。そう思って怠ける。

四角形の台紙に貼られたヒゲボソゾウムシの標本

四角形の台紙に貼られたヒゲボソゾウムシの標本

三角形の台紙に貼られた石垣島のゾウムシ

三角形の台紙に貼られた石垣島のゾウムシ

 さて、私の標本の作り方には、とりあえず二種類ある。一つは、採ってきてまだ柔らかいうちに、四角い紙の台紙に、足を伸ばして(展足)、貼り付ける。それを乾燥機に入れて乾かす。一月もすれば、標本箱に入れてもカビが生えない程度には乾く。だから乾いたら完成。あとは適当に分類して、名前を調べるだけ。

 もう一つは、三角の台紙に貼り付ける。この場合は、虫がまだ柔らかくてはできない。なぜかというと、肢も触角も垂れ下がってしまうからである。だからまず綿の上に並べ、肢を伸ばして形を整え、紙包みにしておく。それが普通である。乾いたら、三角の台紙に貼り付ける。

 ただし私は、綿の上に並べない。紙に両面テープの「弱」をまず貼る。その上で形を整え、展足をする。その紙ごと、乾燥機で乾かす。乾いたら、虫だけ剥がして、三角の台紙に横に貼り付ける。テープが「弱」でないといけないのは、このときに虫が全体として無事に剥げないと困るからである。テープの粘着性が強いと、肢や触角のように、細くて長い部分が剥がれず、壊れてしまう。

とりあえず粘着テープに並べられた、ゾウムシにコメツキムシにカミキリムシ

とりあえず粘着テープに並べられた、ゾウムシにコメツキムシにカミキリムシ

 三角台紙に張るのは、腹面が見えるからである。たとえばクチブトゾウムシだと、口の部分に何本の毛が生えているか、それが分類の基準として重要である。四角い台紙にペッタリ貼ってしまうと、その口が見えない。ただし三角台紙に貼った虫は、どこかにぶつけたりすると、壊れる、つまり肢や触角がとれる。三角と四角は、一長一短である。

 私の場合、同じ種類が複数個体ある虫では、三角と四角と、両方の標本を作る。一つしか個体がないときは、とりあえず悩む。次に、たいていは三角台紙に貼る。口が見えないと、名前を調べるときに困るからである。でも、一匹しかないから、ぶつけて壊すと、元も子もない。

針も通さぬ石垣島のカタゾウムシ

針も通さぬ石垣島のカタゾウムシ

 針を刺せばいいじゃないか。そう思う人もあろう。残念ながら、たいていのゾウムシは針で刺すには小さすぎる。もう一つ、大きいゾウムシでも困ったことがある。堅すぎて、針が通らない。頑張って通すと、腹側に針が出るときに、虫を壊す。やわらかいタイプのゾウムシならいいのだが、たいていはむやみに堅い。ものによっては、カタゾウムシというくらいである。こういうものは、大きな台紙に貼り付けるしかない。貼っておけば、必要なときは水に浸して剥がせばいい。これは簡単である。

 十月に入って、二日ほど休める日があり、箱根で標本を作った。この夏に採った虫の全部は、とても標本にできない。でも四角い台紙に貼った分は、もう箱に収めた。次に乾燥機に入っていた、両面テープで貼った分を標本にした。ただしこれも、全部はとうていできない。両面テープで貼った虫のうち、一部を剥がして標本とし、他は紙に貼ったまま、チャックつきのビニール袋に入れて保管した。これはあんがい便利である。紙包みと違って袋は透明だから、外からなにが入っているか、はっきり見える。このまま標本箱に入れておいても済むかもしれない。

 十月中に、ひとまずすべての虫がビニール袋にまでは入った。そこまで行けば、あとは放置しておいてもいい。カビの発生にだけ、気をつければ済む。カビが出ても、いまは洗剤で洗えばきれいになる。でも手間がかかるから、発生させないに越したことはない。そのためには、湿度をせめて60%以下に保たなければならない。秋から冬にかけては、その点も安心である。

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「虫に、なぜ「名前」が必要なのか?」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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