今年もそろそろ年末を意識する時期に入ってきました。
年末年始といえば、手帳選び。
ほぼ日手帳のことを伺いに東京糸井重里事務所に糸井重里さんを訪ねたところ、どうも表情が明るくありませんし、おしゃべりも途切れがちです。
はてさてどうして、というところから、今回のお話はスタートします。
ネットといっしょに、超管理社会がやってきた
糸井 去年みたいに、手帳をこうして、みたいなことを具体的に言いづらいんです。
―― え、なぜですか?

糸井重里さん (写真:大槻 純一 以下同)
糸井 回りくどくなるけど、いいですか? 昔々『日本国憲法』(※)という本を作った、島本修二さんという編集者が小学館にいて、当時、彼から聞いた笑い話があります。
島本さんは、会社に、自転車で通勤していた。ところがそれを見てた人がいたんですね。で、この人があるとき廊下でまじめな顔で話しかけてきた。
「あの、自転車通勤は許可されているんでしょうか?」
このときは二人で大笑いしたんだけど……。
でも今、ぼくが、もしその話を島本さんにされたら、やっぱりその人みたいに「自転車通勤って、小学館的にはどうなの」って聞き返すと思うんですよね。
※「日本国憲法―ピースブック 」(小学館)。原典はそのままに、活字を大きくし、ふりがなと解説をつけたロングセラー本。
―― 当時笑えたのは「いやしくも『公』たる会社が、通勤手段ごとき『私』のことなんか、かまう必要はないじゃないか」と、みんななんとなく思っていたから、ですよね。
糸井 そう。それが今だと、自転車で通勤しているやつが事故を起こした場合、労災がおりるかどうか、とか。「自転車の置き場が会社にないから、自転車通勤の野放しは放置自転車を会社が許したということになりますよね」とか。
そんなつまらないことを、俺らがつい考えついちゃう。それ自体が……。
―― すでに管理社会。全身どっぷり。
糸井 そのとおりです。島本さんとぼくが矢沢永吉の『成りあがり』とかを作っていた70年代80年代は、まだ「自転車通勤は会社的にはいかがなものか」とわざわざ言ってくる人の存在自体が、笑い話だったのに。今やそういう人はあっちにもこっちにもいて、人さし指で、いちいち指さし点呼して「管理」してる、お互いに。
―― そういえばマンションの耐震偽装の問題が起きてから、「あまりに規制が厳しくなって、新しいビルが建てられない」って、建築士さんが困っているという話があります。
糸井 じゃあ、規制が厳しくなって、結局誰の仕事が増えているか。というと「これは大丈夫です」「これはダメです」「これは耐震構造的に法的にオーケーです」「オッケーじゃありません」といったことを調査して報告するひとたちですよね。それって結局、官僚の仕事であり、弁護士の仕事じゃないですか。
―― まさに管理する人の仕事だけが増えたんですね。
糸井 そこで問題なのは、「仕事は増えているけれど、何も生んでいないし、消費されていない」ということなんですよ。
―― ええっ? どういうことですか?
消費のアイデアが見つからない
糸井 つまり、見回りみたいな「管理」の仕事を増やしても、何も生み出さないし、誰も消費をしないじゃないですか。ただ、たしかにこうした官僚的な仕事、官僚的なコストを増やしていくと、ノーアイデアでいろいろ回るんです。
―― 最近、弁護士の数を増やそう、法化社会にしよう、という話をよく聞きますが、「そうなると訴訟だなんだで、ものすごく社会的コストがかかっちゃう社会」になっちゃうかなあ、という気がしてたんですが、すでにそうなりつつあるんですね。
糸井 見回ったり、管理したり、何が正しくて何が間違っているのかって仕事は、役人と天下りの元お役人たちとで回していたわけですよ。現役の官僚としてルールを決めたり摘発する側にいた人が、今度は民間に場所を変えて、それが順法かどうかを調べる人になる。こうした仕事のやりとりが、減るどころか、もはやあらゆる業界に存在している。
この仕事のやりとりの何がすごいって、そこから何も生まれてないのがすごいんですよ。
まず、「ルール」っていう、わけの分からない魔物がいて、その魔物のスケッチを描けると仕事になる。「魔物と遊ぼう」でもなければ、「魔物から逃げよう」でもなければ、「魔物をとっつかまえよう」でもなければ、「新しい魔物をつくろう」でもない。
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