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ドナルド・キーンの贈り物~自叙伝刊行を期に

『私と20世紀のクロニクル』ドナルド・キーン著 角地幸男訳 中央公論新社刊 1600円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2007年10月26日(金)

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『私と20世紀のクロニクル』ドナルド・キーン著

『私と20世紀のクロニクル』ドナルド・キーン著

 どなたかが、立派な評伝を書いてくださると思っていたら、ドナルド・キーンの自叙伝が先行してしまった。この自叙伝はわたしの知らないことをたくさん満載している。

 キーンほど日本文化に精通している人は、日本人でも少ないに違いない。彼の日本への情熱はどこから生まれたのだろうか。最大の要因はキーンの言語習得能力だろう。語学の天才は過去にたくさんいるが、キーンもまたその一人だ。

 アメリカのニューヨーク・ブルックリンで生まれたキーンは、それほど豊かではなかったおかげで、奨学生として自分の学費は自分で賄わなくてはならなかった。そんなおり、イギリスのケンブリッジに留学中に、キーンはひとつの幸せな出会いをする。古本屋のゾッキ本の中に、アーサー・ウェイリーという人が翻訳した紫式部『源氏物語』の英語翻訳版を発見したことだ。

 第2次世界大戦が始まり、イギリスはナチスドイツの空爆下にあった。そんななかでキーンは美しい英語に翻訳された『源氏物語』をひたすらに読んだ。『源氏物語』のなかでは、対立が暴力に及ぶことがない。

 主人公の光源氏は、ヨーロッパの英雄物語のヒーローとは決定的に異なっていた。暴力ではなく悲しみがそこにあった。それは源氏が人間であって、この世に生きることは避けようもなく悲しいことだからだった。ここにおいて悲しみは『源氏物語』という文学に昇華する。

キーンはその文学性を抱きしめて、空爆下のロンドンで、なんどもなんども『源氏』を読み返していた。おそらく、この体験がキーンの日本文学研究への決定的な端緒となったに違いない。

もう1つ、本書からキーンの戦争観を紹介する。キーンは太平洋戦争で従軍し、キスカ、アッツなどアリューシャンの諸戦場を訪れ、戦争後期には沖縄戦も体験する。そして、終戦直後、初めて日本本土を訪れた。そのとき、極めて友好的な日本人に出会う。日本人がアメリカ人であるキーンに、毛ほどの憎しみを示さないのに驚く。

「たぶん友情が人間同士の抱く普通の感情で、戦争はただの逸脱に過ぎないのだろう」

 こういった人格とは仲良くなれそうだ。本書後半は名高い日本の文壇との交友録で、そもそも、上記のような心の持ち主だけが可能な交友が繰り広げられる。これはキーンの真骨頂。戦後文壇史としても、貴重な資料になっている。

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