「人生の諸問題」

人生の諸問題

2007年11月2日(金)

「息子」と「宴会芸」と「君が代」と

〜お父さんは、数学で1点を取りました

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 この間、息子から就職の相談を受けたの。でも、自分がどうだったかというとさ、結局、成り行きでしかないじゃない?

小田嶋 そうだね。

 だから、真剣に進路ということを相談された時に、返す言葉なんかないんだよ。時代としてないのか、俺がないのか分からないんだけど。

小田嶋 岡は、(就職は)大人たちとのゲームになるから、勝った方がいいだろう、というふうにして取り組んできたわけだろう。これまでの話からすると。

 その通りなんだけど、僕の息子のように、ゲーム感覚なんて、そんなことにあまり興味がないやつら――そういう健全な青年たちも世の中にはたくさんいて、勝ち負けって何? みたいなことを言われると、もう何もない。

小田嶋 そうだよね。

親の自分とただの自分と

 僕らの前の世代というのは、「自分」という文脈というのかな、例えば戦前だったら「国」になるんだろうけど、「家族」でもいいな。そう、一家とか家族とか、そういうもののために、こういうように生きる、そして自分もその中でこそ幸せだ、みたいな大きな文脈が自分以外のところにあって、そこで今何をすべきかという話が作れたんだけど、俺たちの世代になってからは、もう、そういうものはなくなったでしょ。

小田嶋 なかったね。

 そういうものがないと、受験にしても就職にしても、結局、そのゲームが面白いから勝ってやる、ということ以外に、僕の場合は自分を突き動かすものがなかったと思う。でも、少なくとも、僕はそれがあったから面白かった。だから、それ以外にどうやってみんな頑張るんだろうと。これを今日ね、話そうと思っていたんだよ。

小田嶋 ああ、そうね。でも、岡のゲーム感覚は他人に適用できる話じゃないよね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力「杏奴」)

 そう思うよ。息子に、お前そう感じないのか? と聞くことも意味がないぐらい違う人間なわけだし、そもそも息子はそんなふうにゲーム感覚で生きていない。

小田嶋 対息子ということについて言うとね、俺はひとりの人間として思うことと、親という立場が言わせる発言ってあるでしょ。それがいつも、常に矛盾しているわけよ。

 だろう?

小田嶋 そんなのやるべきことじゃねえよとか、知ったこっちゃないさ、っていうのが個人的にはあるわけだけど、親がそれ言っちゃっていいのかなという思いはある。

 それに関して言えばね、俺はずっと一個人として接しているわけ。だって両方言うと、子供、混乱しちゃわない?

小田嶋 混乱してるけどね(笑)。

 そうだろう。

小田嶋 「そういう宿題はね、無視すればいいと思うけど、でも無視すると厄介なことになると思うよ」とか、そういう話をしてる(笑)。

嫁さんにも、ごめんなさい

 でもさ、母親っていうのは、当然のように親としての発言をせざるを得ないわけだよ。そうすると、お父さんは「まあお母さんが言うことの方に一理あるんだけどさ」と、及び腰になっちゃう。卑怯者ということなんだけど(笑)。

小田嶋 うちもやっぱり、最終的には嫁さんがすごい建て前論を言っているよ。絵に描いたようなことを。で、俺が「いや、でも、お母さんはああ言うけどね」なんて、子供にとっての空気穴みたいなことになるでしょう。そうすると、嫁さんはすごい怒るわけ。

 ま、それは怒るよ。

小田嶋 私がせっかくここまで言ったことの、その前提をどうする気だ、絨緞ごとひっぱってテーブルをずらすみたいなことを言うな、って(笑)。

 だけど父親と母親が違うことを言うと、子供としても混乱するんじゃないかな、とは思う。でも、仕方ないよ。他に手法はない。実際、息子は、高校を中退してしまったからね(笑)。学校を辞めた時も、あれっ、お父さんは会社を辞めて、離婚もしたよね、何で僕が高校辞めたらいけないの? ということになって……。

―― 至極もっともなことを。

 それでもう、何か、ぐうの音も出なかった(笑)。だから、それがいい教育法かどうか分からないけど、でも、自分が建前を言うっていうのはかなり変なことじゃないかって。

小田嶋 俺の中では、まっとうな人間に育ってほしいという前提からくるアドバイスの仕方と、せっかくコースに乗っているんだから道を外れないでくれよという時のアドバイスの仕方は、結構ずれてくるわけよ。

 お前はそうだろうな。

小田嶋 だからそこのところで、結局、俺の中の問題だよね。「まあ、コースなんか外れてもいいから、お前の好きなように生きろ」と、そこまで言う度胸があるのか。「あのさ、結局人間なんてくだらんものだから、コースに乗っとくもんだぞ」というふうに言うのか(笑)。

適応のため努力は短いほどいい

 小田嶋の場合、小田嶋の本音というのは、非常に危険なわけだ。だって、どうせ死ぬんだからさ、に近いような(笑)。俺の場合の本音というのは、そんなにデンジャラスじゃないんだよ。いいんだよ、ルールなんて。取りあえず勝てばいいんだから、みたいなことだから。

―― 日々の努力なんていらないよ、と。

 でも、絶対に90点は取れよ、というようなことでしょう(笑)。そのために必要なのは3日間死ぬ気での詰め込みだ、みたいなことなわけだよね。だけど小田嶋の本当に思っていることというのは、僕よりも反社会的だし、アナーキーだから。

小田嶋 反社会的ではないけどね。

 反社会的じゃないけど、でも社会的じゃないよね(笑)。俺のは社会的なんだよ。だって最終的には、激しく適応しなければつまらないことになるぞ、ということだから。

小田嶋 でもね、俺、子供には言えないよ。学歴なんか価値はないけど頑張れとか、そんなこと言えないでしょう。

 それは言えないな(笑)。で、実際には小田嶋はどうしてるの?

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、キリンビール、富士通、大和証券、富士ゼロックス、JR九州、中部電力、シチズン、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界をまたにかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社)。 近著は『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。


このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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