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『プレカリアート デジタル日雇い世代の不安な生き方』雨宮処凛著、洋泉社新書y、780円(税別)
「万国のプロレタリア、団結せよ!」と、マルクスとエンゲルスがアジる『共産党宣言』が西洋の端っこ、ロンドンで出版されたのが1848年。それから百数十年の歳月が経ち、東洋の端っこにあるこの国で、プレカリアート(=不安定な雇用・過酷な労働状況を余儀なくされる非正規雇用者・失業者)を代弁し、「生きさせよ!」と訴える本書が上梓された。プレカリアートとは、「Precario(不安定な)」「(Proletariato(プロレタリアート)」(いずれもイタリア語)を組み合わせた造語である。
日本におけるプレカリアートの典型が若年ホームレスたちだ。日雇い派遣で仕事をこなし、6000円から8000円といった額の日銭を稼ぐものの、まとまったお金がない、身元保証人がいないなどの理由で、雨露をしのぐ部屋すらも借りられず、ネットカフェや24時間営業のマクドナルドを寝ぐらにする現代日本の“難民”たちである。
「日雇い派遣」「貧困ビジネス」と「生活保護」
プレカリアート問題の根柢には、バブル崩壊の余波を受け、自ら望んでも正社員になれなかった若者の増加という問題がある。業績悪化を人件費の切り下げで回避しようと、企業が新卒採用を大幅に切りつめたからだ。正社員になれなかった若者はフリーターに、あるいは人材派遣会社へと流れていった。
企業の意を充分に汲んだのが政府である。それまでは臨時的・一時的な労働力だった派遣の性格を変え、いつでもクビ切りができる使い捨ての安価な労働力に仕立てていった。労働者派遣法の度重なる改正によって、である。以前なら禁止されていた製造業にまで、派遣を認めたことで、究極の不安定雇用である「日雇い派遣」が始まったと著者は怒りを露にする。
一方、どこにでも蜜に群がる蟻がいるものだ。人材派遣会社、消費者金融、格安料金で一夜の宿を提供し、仕事も斡旋する通称レストボックス(昔のドヤ・飯場)、敷金礼金ゼロの不動産物件、保証人ビジネスなど、プレカリアート相手の商売で儲ける「貧困ビジネス」の一群である。
これらに一度絡め取られると抜け出すのが困難で、しかも本人にその自覚はない。一番よい解決法は生活保護を受けることだ、と著者はいう。調べてみたら、住んでいる地域の福祉事務所に行って申請すれば、受給可能かどうかはすぐわかるらしい。ちなみに、東京でひとり暮らしをしている20歳から40歳の成人の場合、ひと月あたりの上限は13万7400円(家賃込み)だという。結構もらえるものだ。
あれ? そういうことなの?
以上がこの本のいわば概論。以下で、実際のプレカリアートに迫っていくのだが、彼らの悲惨な実態が明らかにされるというわけではなく、正直、少し肩透かしを食らった気分になる。
「プレカリアートを生み出す社会の仕組みがおかしい。何とか変えなければ」と、元プレカリアートでもあった著者が熱い思いで取材していくのに対して、「自分がそういう生活を選んだのだから、社会が甘やかしてはいけない」「貧乏でも楽しく生きる方法はある」と、そんな姿勢に疑問をもつ、あっけらかんとした若者が多いのである。たとえ当事者でも、社会や政治に対する怒りをもっていない若者が多数派だ、と著者も素直に認める。
この本で圧巻なのは、男性フリーター2人と、大企業勤務の勝ち組女性、団塊世代の主婦、それに著者らが加わった「就職氷河期世代の逆襲!」と題した座談会である。
フリータの皆様も、この著者のように現象を書物にし、話題に乗って稼ぐような能力が欲しいですね。現状を受け入れて、そこで儲ける強かさも必要なのでは。というよりフリータの気ままな生活を楽しんでいるんじゃぁないかと思う私は不純でしょうか。(2007/11/02)