• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

君だけのプラネタリウム

  • 小橋 昭彦

バックナンバー

2007年11月12日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

ムラからの手紙

 「4年生は習ったから知ってるやろ」

 そう言って先生はげんこつを握った腕をすいっと前に突き出しました。「こうして水平に腕を伸ばして。さあ、げんこつひとつ分、何度やった?」

 十度、と暗がりから声が上がりました。4年生、あるいは上級生の誰かでしょうか。

 「そうや、十度や」

 そういって先生はもう一方の腕を突き出します。「じゃあ確かめてみよか」左手のげんこつに右手のげんこつを重ねて。「これで二十度、このまま九十度までやったら直角、頭の上にくるはずやな」

 子どもたちが真似をします。

 「さあ、いくで」

 声を合わせて。十度。二十度。周りを囲んでいた親もつい一緒になってやります。こんなこと、学校でやったことあったかな。記憶をたどれないまま、下になっていた左手を抜いて右手に重ねて、三十度。今度は右手を抜いて左手に重ねて、四十度。子どもたちの声が大きくなってきました。五十度、六十度。幼稚園の子たちも一緒に声を出しているのでしょう。七十度、どんどん腕が上がっていきます。八十度、もう手が見えない、九十度!

 「そうや、そこが天頂や!」

 先生が手にしていた懐中電灯をぱっとつけ、その光が一直線に天に伸びました。みんな一斉に光条を追い、視線の先、振り上げた自分のげんこつの向こうに、一面の秋の星空が広がっていました。西を遮る校舎の影に白鳥座が頭を突っ込んでおり、その後を追いかけ、天馬ペガサスが今まさに天頂に駆け上ろうとしているのでした。

先生親子いっしょの観望会

 長男が通う小学校のPTA教養部が企画した、星空観望会の2度目です。1度目は夏の月食観測を企んだのですが、残念ながら雨に降られ、体育館の中で望遠鏡作りをしたに終わりました。2度目の今日は、この1週間内でもいちばんの星空。何年か前までこの小学校に勤めていた(今は市内の別の学校を担当されている)天文ファンの若い先生に講師を頼み、子どもたちと親たち、そして先生たちが夜の学校に集まりました。

 2度目なので出席率を心配していたのですが、地域ごとの点呼では大半の子が出席の様子、冷え込む金曜の夜、校庭に降りる石段に子どもたちが座り、その前に講師を務める先生が立ちました。PTAの教養部長であるIくんのお父さんが挨拶し、先生のひと言の後、学校の電灯がすべて消されるのを待って、今夜のイベントが始まりました。子どもたちの周りにはお父さんやお母さんたち。最後に残っていた職員室の電灯が消され、周囲を闇が覆うと、星々がいっそうくっきりと輝き出し、親たちの口からもほぉ、と声が漏れました。

 今回のイベントを企画した、さっき挨拶したIくんのお父さんは、以前ぼくにこんなことを言っていました。「お父さんやお母さんや友だちと夜の学校で星を見た思い出が残って、いつかこの学校からひとりでも科学者が出たらおもしろいやん」と。去年までのPTA教養部の活動は、田んぼを借りて米やとうもろこしを育て、みんなで収穫するタイプのものが多かったのですが、今年は思い切って路線変更。農業体験もいいけど(実際彼はふだん、炭を焼いたりお茶を育てたりしているのです)、今年はより教養っぽいことをやりたいという意図で企画したということでした。

見えないのではなくて…

 東京ではあまり星が見えないそうですが、あなたの住む郊外ではいかがでしょうか。突然明るくなって肉眼で見えるようになった彗星が話題を呼んでいますが、ご覧になったでしょうか。その日教えてくれた先生は、彗星のようなイベントではなく、ベーシックな星を子どもたちに伝えようとされたようです。手で角度をとったのは、そんな星の世界へ案内するための準備でした。

 「北を向いて」

 先生がいいます。「幼稚園の方な」

 みんなが向いたことを確かめると、また腕をあげて、「さあ、今から北極星を見つけるからな」

 と角度を取り始めます。「十度、二十度、三十度、四十度」手をとめて、「これは行きすぎ。半分だけ戻ろう」そして「三十五度、さあ、そこに北極星があるぞ」

 子どもたちに見つかったか、と聞いています。父母の間で、「ああ、あれや」と言う声が聞こえました。田舎に住んでいても、大人になったら、あらためて星を意識する機会は少ない。その日初めて北極星をそれとして意識した人もいたかもしれません。そのようにして北極星を探し出し、そこを目印に星座探しが始まりました。

コメント1

「ムラからの手紙」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

意外なことに、伝統的な観光地が 訪日客の誘致に失敗するケースも 少なからず存在する。

高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員