
江戸風俗研究家の平野英夫さん(写真:皆木 優子、以下同)
「江戸の袋物」をご存じだろうか。江戸時代、財布やハンドバッグ代わりに持ち歩いた入れ物で、代表的なものに煙草入れ、紙入れ(財布)、鏡入れ、化粧道具入れなどがある。女性なら、七五三の時に着た晴れ着の懐に、「筥迫(はこせこ)」という小さなバッグを入れたのを覚えているかもしれない。筥迫も、袋物の一種である。
現代では目にすることも少なくなった様々な袋物を蒐集しているのが、「其角堂(きかくどう)コレクション」を主宰する、江戸風俗研究家の平野英夫さんだ。

写真2:女性用の懐中鏡入れ。留め金にも凝った装飾がされている


写真3(上)、写真4(下):男性用の紙入れ。中を開くと鮮やかな柄が目に入る

写真5:細かい網目が特徴の、籐製の袂落としと煙草入れ
平野さんは1947年日本橋に生まれ、都立工芸高等学校金属工芸科を卒業後、ジュエリーデザイン・クラフトマンとして独立。本業の傍ら浮世絵や火消装束、千社札、袋物などを蒐集してきた。今回は平野さんのコレクションの中から、江戸風俗を彷彿させる珍しい袋物を紹介しよう。
例えば写真2は、女性用の「懐中鏡入れ」。鏡、ちり紙、紅などを入れて持ち歩く。左下に伸びているのは「板鎖」で、先端の鳥と笙の細工が見事である。
写真3は男性用の袋物で、箸、小さいナイフ、楊枝などを入れて持ち歩く。外側は無地の地味なデザインだが、中を開くと鮮やかな色彩が目に飛び込んでくる(写真4)。こうした「表は地味、中は鮮やか」という、「江戸の粋」を目の当たりにするかのような瞬間だ。江戸時代、贅沢を戒めるために繰り返し出された奢侈禁止令の影響が大きいのだろう。
「袂(たもと)落とし」というユニークな袋物もある。子どもの紐付き手袋のように、紐の両端に袋がついているものだ。紐の部分を首から掛け、着物の袖の中から左右の袂へと通し、外から見えない内ポケットのような役割を果たす。武家階級では特に、自分の持ち物を忘れてくることが恥とされていたので、よく利用されていたという。
写真5は籐製の袂落とし。小さな箱とカードケースのようなものがビーズでつながっていて、楊枝やちり紙などを入れて持ち歩く。下にあるのが「筒提げ煙草入れ」で、「花結び編み」「石畳編み」という手の込んだ編み方をしており、現在では再現できる職人はいない貴重なものである。
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