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『鯛という名のマンボウ アナゴという名のウミヘビ 食品偽装の最前線――魚、肉、野菜、米』吾妻博勝著、晋遊舎ブラック新書、720円(税別)
ようするに、おれたちは、ホンモノの食べ物なんてひとつとして口にしちゃいないのだ。
本書は、最近報道が絶えない「食品偽装」問題について、著者の身の安否が気遣われてしまうほどに一切合切暴いている、まさに「ブラック」な一冊である。タイトルは「魚」にフォーカスされているけれど、肉、野菜、米とほぼ食全般をフォローしている。
あの『マンガ嫌韓流』の版元ということで、キワモノと決めつけられているフシのある晋遊社ブラック新書だが、新書後発組としてはなかなかの健闘ぶりを示している(といってもまだ3冊目ですが)。
出版社のブランドイメージで本を判断する人って意外と多いのだけれど、中身を書くのは出版社じゃないですからね。最終的には著者次第、創刊ラインナップの多根清史『プレステ3はなぜ失敗したのか?』も生真面目な佳作だったし、本書も、扇情的なトーンはあるものの、著者のこれまでの仕事、および食に対する真摯さと造詣の深さから判断するに、基本的には信頼していいと思う。
どの辺まで信じるかはお任せですが…
ただし、危機意識を募らせようとするあまりか、たとえば「カップラーメンの残り汁にゴキブリを落とすと死ぬ→添加物と関係があるのかもしれない」といった、誘導気味の記述がないではない。そのへんは各自ご判断を。
導入部の「まえがき」からしてショッキングだ。ある有名メーカーの贈答用高級焼豚を常温で数日放置したら「購入時の弾力性はすっかりなくなり、ドロドロに溶けて指先がズブズブと入る」。
「要冷蔵」とあるのは腐るのを避けるためじゃなく、卵白、デンプン、水あめ、大豆タンパクなどで増量しているのに加え、保水剤で文字どおり「水増し」しているので、冷たくしておかないと型くずれしてしまうからだろうと著者は推測する。
じっさい、暑い盛りの晩夏、生ゴミのわきに一カ月放置しても腐らなかったという。ショウジョウバエさえわかなかったそうだ。
しかし、虫も食わないそんなモンでも人間は食うわけである。人間強い。人間最強。さすが、もの食う人びと。
2年ほど前、「週刊女性」が「“不当表示”追及!「回転寿司」の“ネタの秘密”をバラす!」と題したスクープをしたことがあった。偽装業者と暗に指示されたと考えた回転寿司チェーンが、信用失墜をおそれ損害賠償の訴訟を起こしたが敗訴した。判決理由(のひとつ)は次のとおり。
「100円回転寿司店においては、代替ネタが使用されていることは社会に広く知られている」
常識的に考えて、あの値段で、マグロのトロだのヒラメのエンガワだの、レアかつ高級とされるネタを提供できるわけがない。
とはいえ、「じゃあ正体は?」と問われると答えに窮するのではないか。自分もそうだが、「まあ毒ではないだろう」くらいの気持ちでなんとなく食ってしまっているのではないだろうか。
毒が入っていなければ、安い方がいい?
その「なんとなく」を保証していたのは、「水と安全はタダ」という戦後日本社会を支えてきた神話だったわけだが、冒頭の焼豚同様、もはやグズグズである。ミートホープに代表される一連の食品偽装事件は、神話崩壊のクライマックスを飾る危険で陰鬱なメロディなのだ(たぶん)。
偽装の内訳を列挙するのはスペース的に無理なので、さわりをちょっと。
まず、代替ネタのエースといえば彼をおいてほかにいないでしょう。映画「ダーウィンの悪夢」で、グローバリゼーションを象徴する悪役として主演も努めた、そう! ナイルパーチ!!(パチパチ)
ナイル川が原産の、体長2メートルに及ぶ大型の淡水魚だが、回転寿司にかぎらず、日頃、われわれが食っている「スズキ」とつく魚はだいたい彼が変装したものだ。ほかには、ヒラマサ、銀ヒラス、沖ヒラスなどにも化けている。
続いては、小池百合子元環境大臣により、ブラックバスなどとともに「特定外来生物指定リスト」に載せられるという不名誉に浴した、アメリカナマズことチャネルキャットフィッシュ!!(パチパチパチ)
彼の変幻自在ぶりはまさに多羅尾伴内である。マダイ、ヒラメ、スズキ、アイナメとじつに4役を軽々と演じ分ける。正体不明の白身魚という脇役もいとわない。「清水ダイ」とタイに変身していることもある。岐阜あたりでは「河フグ」と呼ばれ名物料理にさえなっているそうだ。ナマズのくせになかなかやるのだ。
さて、偽装魚、代用魚の話になると判で押したように、「旨けりゃべつにいいじゃん?」ってなティピカルな反応が返ってくるわけだが、たしかに、安価で旨いだけなら、商モラルはべつとして、代替ネタでもかまわないといえばかまわない。
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