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『M&A時代の企業防衛術』津田倫男著、朝日新書、700円(税別)
「会社は社長のものである」というのが、まだまだ日本の実態だろう。
バブルの崩壊以降、銀行や企業の間の株式持ち合いが崩れ、「株主」の存在感が大きく増した。世の中ではコーポレートガバナンス(企業統治)のあり方が云々され、株主の利益拡大が重視され、そして「会社は株主のものだ」という欧米的な物言いが通用する時代に突入したかにみえた。
グローバル化でM&A(企業合併・買収)が活発になり、日本企業がどんどん外国企業の傘下に入るようになれば、株主の利益を一番に考える経営者たちが外国から乗り込んで来て、日本企業の経営を根本から変えるに違いない、そんな見方をする専門家もいた。だが、どうやら、そういう方向には進んでいないようだ。
なぜなら、上場企業がこぞって「買収防衛策」を導入し始めたからである。本書は、書名のとおり、そうした防衛策について細かく説明したものだ。
不利益があるのは経営者だけ?
典型的な買収防衛策は「ポイズン・ピル(毒薬条項)」と呼ばれる方法だと著者はいう。買収を企てる者が現れ、株式を買い集めだした際に、それ以外の株主に新株を割り当て、買収者の持ち株比率を下げてしまうというものだ。つまり、20%買い占めたと思ったら、毒薬条項の発動で10%に舞い戻ってしまった、ということが起きるわけで、買収はできないも同然である。
この条項を発動するには、株主の利益にならないような、“敵対的な”買収であることが条件だが、その判定は、事実上、経営者や経営者が選んだ独立委員会が下すことになっている。だが、この点について著者は以下のように本質的な疑問を呈している。
〈実のところ、敵対的というのは株主に対してというのは建前で、本音は経営者にとってそうであるのに過ぎないのではないか。つまり株の買い付け行為が敵対的であると感じるのは、それが経営者の地位を追われる人々にとって敵対的〉なのではないか、というのだ。
つまり買収防衛策は、企業経営者が自らの地位を保つための手段という側面が強いのではないか、と。
著者は企業にM&Aを助言するアドバイザーという立場から、買収防衛策の内容や導入方法について説明しているものの、このところの日本企業の安易な防衛策導入には批判的な意見を持っていることが行間から読み取れる。企業価値つまり株主の利益を上げるような真っ当な経営をすることこそが、最大の買収防衛策になる、というスタンスだ。
2007年は、外国企業による日本企業の買収が頻発する「M&A元年」になるはずだった。今年5月に解禁された「三角合併」によって、外国企業の株式を対価にした日本企業の買収が可能になったことから、新聞各紙はこぞって危機感を煽ったのだ。日本経団連を中心に産業界も猛烈な反対キャンペーンを行った。新聞が騒いだのも産業界の動揺があってのことだろう。
確かにスチール・パートナーズなど投資ファンドによる株式買い集めが相次いで表面化し、M&Aが始まるのではないか、という予感はあった。だが、「防衛策」によってファンドは敗北を喫し、本格的な外国企業によるM&Aはほとんど実現していない。
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