お笑いブームの中、よく出てくる「麒麟(きりん)」という漫才コンビの左側、色が黒くて、いわゆる「いい男」ではないつっこみの方、田村裕。本書は、お父さん、お兄さん、お姉さん、裕、という構成の田村家が、裕、中学一年の夏、突然「解散」するところから始まる。
「ああ、テレビで見たよ、知ってる知ってる、貧乏ネタね」
「近所の公園に住んでたって話でしょ」
と言われるかもしれない。
その通りである。そして、それ以外のことが、たくさん詰まっている。
家族解散
『ホームレス中学生』田村裕、ワニブックス、1300円(税抜き)
中学一年の裕が一学期の終業式から帰宅したら、自宅マンションに「差し押さえ」の札がベタベタ貼られていた。家にも入れず、呆然と立ちすくむ大学生の兄、高校生の姉、中学生の裕の前に現れた父が告げた言葉は「解散!」であった。
何らかの経済的な事情で家を失ったら、家族一丸となってどこかに避難するのではないか。バラバラにするならメドをたてつつ配置するのではないか。否。この父は「解散!」と宣言して、真っ先に立ち去った。
兄、姉に心配かけまいと「友だちのところに泊まらせてもらう」と言いつつ、中学生の裕は雨を避けて公園の「ウンコ」型遊具の中に住まう。小遣い銭はすぐに底をついた。
<何も食べるものが無く、困り果てているときに目に飛び込んできたのは、公園の草>
野菜と大差ないはずだから、と、試しに食べてみる。
<苦くて緑臭くて美味しくなかった。野菜と大差無いはずなのに、みんなが食べないわけである。昔の人はちゃんと食べ比べた結果、美味しい草の情報のみを残してくれたのだ。昔の人、ありがとう>
水に浸したダンボールまで食べた。一文無しで、コンビニのパン売り場の前に座りこんだ。店員からの死角だ。盗ってしまおうか、いや、いけない、と葛藤する。そして1時間以上が経過したとき、ふと新たな考えが浮かんできた。
<中学生が1時間以上パン売り場の前にしゃがんでいたら、店員もしくは他の客はどう思うだろう。何か様子がおかしいと思うのが普通じゃないか>
裕は、誰かが哀れんで買ってくれること、とりあえず、どうしたの、と聞いてくれることなどを期待して座り込みを続けるが、2時間たっても3時間たっても徒労だった。がっかりして公園に戻ると、どこかのおじさんが鳩にパンの耳をやっていた。裕はパンの耳をねだった。受け取るやいなやむさぼり食った。
<驚きのあまり、おじさんの息を吸う音がはっきりと聞こえた。あんなにはっきり人の息を吸う音を聞いたのは初めてだったけど、そんなことはお構い無しにパンの耳をむさぼった。
そして、「ごめん、鳩」とあやまった>
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