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平均年齢67歳!~『蜷川幸雄と「さいたまゴールド・シアター」の500日』
橋田欣典・須賀綾子・強瀬亮子・埼玉新聞取材班著(評:朝山実)

平凡社新書、700円(税別)

2007年11月22日(木)

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蜷川幸雄と「さいたまゴールド・シアター」の500日 平均年齢67歳の挑戦

蜷川幸雄と「さいたまゴールド・シアター」の500日 平均年齢67歳の挑戦』橋田欣典・須賀綾子・強瀬亮子・埼玉新聞取材班著、平凡社新書、700円(税別)

「老いからは逃げられないけれど、せりふは覚えようと思えば覚えられる。自分一人の問題じゃなくて、チームに対して一生懸命やる責任があるから」

 さいたまゴールド・シアターに参加した、73歳の女性は、そうつぶやいた。

 本書は、55歳以上限定、最高齢者は81歳の「高齢者劇団」の誕生から、第一回の公演を終えるまでの、500日間のドキュメンタリーだ。

 劇団を指導するのは「世界のニナガワ」こと蜷川幸雄。演劇界のトップをゆく演出家である。著名にして、多忙を極める蜷川が、舞台経験のない素人たち、それも高齢者を育成するということのミスマッチもあって、一般公募の段階からマスコミの注目を集めた。ホームグラウンドとなる「さいたま芸術劇場」のイメージアップと、募集を「55歳以上」に限ったことから、話題の風向きが高齢化時代の「自分探し」と絡み合ってのことだ。

 執筆は、地元の埼玉新聞の記者や、共同通信の支局記者のチームによるもの。蜷川が果たした役割や言動もそうだが、公募に応募した一人ひとりが蜷川の提起した試みに参加することに何を求め、どう苦しみ、どう変わっていったのかを切り取っている。

〈大勢の人が長寿となり、経験を積んだ人たちの身体表現や感情表現をとらえ直してみたら、今までになかったような形態の演劇ができるかもしれない〉

 高齢者劇団の構想は、若さが価値あるものとされ、年をとるのはマイナスという常識に対するアンチな実験でもある、というのが本書を一読しての感想だ。

 とはいえ、年齢は正直なもの。身体は思ったように動かない。階段の上り下り。台詞の暗記。どれも、大変だ。

 斬新な試みで第一線を走ってきた蜷川幸雄も、このとき70歳をむかえている。彼自身が高齢者の一人に加わる年齢になっていた。

 当初、200~300人の応募があればと見込んでいたのが、希望者が1200人を超えたのは当事者が驚くほど、予想外の出来事。それほど、新たな人生への期待と、やりのこしてきた思いを抱く人たちが数多くいたということだろう。

 オーデションにあたって蜷川は、書類選考で足きりをするのではなく、15日間延べ78時間をかけ、応募者全員を面接した。

「生きてきて涙が出るほどつらいっていう、そのせりふをあなたたちにいってほしいんだ。そのためにやっているんだから!」

中間発表の前日に、突然演目を変更

 審査中、つい大声になるなど、蜷川の取り組みは、ハンパなものではなかった。マスコミの注目もある。まったく先行きが見えず、ふだんの舞台の何倍もプレッシャーがかかっていたことだろう。

〈オーデションの休憩時間に、蜷川は、おれもひまじんだなとぼやいたり、自分自身を鼓舞するように「くそー、壁が厚い」「手ごわい」「闘争だ」と声を上げることも〉

 蜷川といえば、怒って灰皿を投げるというエピソードが面白おかしく一人歩きしてきたが、大勢の素人を相手に、彼が一人もがいている姿を本書の中で目にするだけでも、読み応えがある。

 わざわざ、誰もやったことのないことをやろうとする。「プロ」とは、「本物」とはどういうものかが、オーディションで、団員を選んでいく過程ひとつからも見えてくる。

 見事合格したのは、当初の予定の倍にあたる48人。昔、芝居をかじった人も混じってはいるものの、多くは、初めて舞台に立つという人たちだ。合格はしたものの、劇団員たちは戸惑っていた。それ以上に、実は蜷川自身が悩んでいるのがわかる。前例がない、先が読めないからだ。

 稽古に選んだ脚本は、台詞が多かったり、意味が複雑であったり、プロの俳優にとっても難度の高いもの。素人だからと下駄をはかせたりしない。あえて、ハードルを高くしている。1年後には、プロとしての発表の舞台が待ち受けているからだ。

 2カ月間稽古を積み重ねた、中間発表の日の前日、「やめましょう。人に見せる作品に仕上がっていない」と、蜷川が演目の変更を宣言する。

 「いいものをつくるには捨てることも必要。やめることは次へのステップになる」

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