「村田真の「手が届く現代美術」」

日本画の素材と技法を用いた現代美術

モチーフは、マンガや西洋名画やポップカルチャー

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2007年11月29日(木)

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 銀座5丁目、ソニービルとメゾンエルメスの間を入った雑居ビルのひしめく裏通り。築50年ほどのエレベーターもない小さなビルの4階に、目指すメグミオギタギャラリーはある。狭小な敷地ゆえか、ビルの2階から上は螺旋(らせん)階段になっているのだが、手すりがないためエッシャーの絵のような不思議な雰囲気を醸している。

 「MEGUMI OGITA GALLERY」と書かれたドアを開けると、真っ白い壁が目に飛び込んでくる。ギャラリーは予想通り、いや予想以上に狭く、4畳半に満たないくらい。事務スペースを入れても5〜6坪といったところか。

 オーナーは荻田徳稔氏で、ギャラリー名の通り、名は「めぐみ」と読む。日本画系の画廊勤務を経て、現代美術系の西村画廊で11年間働き、2007年6月に独立して店を開いたばかり。この半年間で、若手彫刻家の保井智貴を皮切りに、ロレッタ・ラックス、上條花梨、ヴィクトリア・ジットマンといった4人のアーティストの個展を開いてきた。

 国内外を問わず、彫刻あり絵画あり写真ありのバラエティーに富んだ人選だが、共通するのは、工芸的とも言えるほど丁寧な仕事をするアーティストばかりだということ。オーナーの好みもあるだろうが、小さな空間だから荒削りのものより緻密な作品のほうが見栄えがするという事情もあるのかもしれない。

保守的な日本画には関心がなかったが、画材は性に合っていた

 5人目の個展となる中村ケンゴも、キッチリとした絵画を制作するアーティスト。今回は白と黒をベースにした作品5点を並べている。しかし絵画といっても画面に光沢がなく、油絵とは明らかに違う。実はこれ、日本画なのだ。

中村ケンゴ展の展示風景。中央の作品が《スピーチバルーン・イン・ザ・ビーナス》、左右の作品が《21世紀のダンス》

中村ケンゴ展の展示風景。中央の作品が《スピーチバルーン・イン・ザ・ビーナス》、左右の作品が《21世紀のダンス》

 いや、日本画と言ってしまうとちょっと違和感が残る。なぜなら、彼がモチーフに取り上げるのは、後述するようにマンガや西洋名画やポップカルチャーであって、伝統的な花鳥風月などではないからだ。だから厳密に言えば、日本画の素材と技法を用いた現代美術であり、中村は「日本画家」ではなく、「日本画材を使うアーティスト」と言うべきなのだ。まあこの辺は、何を「日本画」と呼ぶかという定義の問題になってくるが。

 それに、日本画材を使うのは本作だけで、下描きの段階ではコンピューターに画像を取り込んでいじるので、どちらかというとデザインの感覚に近いという(本人に言わせれば「デザイン」も「デッサン」も語源は同じだ)。

 ともあれ、中村が日本画を学んだのは、芸術系の高校に入ってたまたま日本画のコースに振り分けられたから。その後、多摩美術大学でも日本画を専攻し、大学院まで進んだものの、保守的な日本画の世界より現代美術やポップカルチャーに関心を持っていたという。にもかかわらず日本画を捨てなかったのは、こってりした油絵より水溶性の画材の方が性に合っていたからだそうだ。

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著者プロフィール

村田 真(むらた・まこと)

村田 真

1954年、東京生まれ。東京造形大学卒業。ぴあ編集部を経てフリーランスの美術ジャーナリストに。北海道新聞、ウェブマガジン『artscape』などに連載するほか、『美術手帖』『読売年鑑』などに執筆。著書に『美術家になるには』、訳書に『ビジュアル美術館12絵との対話』などがある。慶応義塾大学・学習院女子大学非常勤講師のほか、横浜BankARTスクール校長を務める。



このコラムについて

村田真の「手が届く現代美術」

空前の美術ブームに沸く欧米市場に対して、日本市場はよやく底を打ち、上向きになってきたところ。最近では30代の人が現代美術作品を購入する例が多いという。どうせ買うなら、本物の美術品。アクセサリーやバッグなどのブランド品を買う喜びとはひと味違った楽しみがある。現代美術に通じた美術ジャーナリストの村田真氏に現代美術作品の見方、買い方を指南していただく。

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