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限界集落の豊かなコメ農家

新潟県・松之山【3】

  • 宮嶋 康彦

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2007年11月29日(木)

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 戸邊さんの生活の理想を聞いてみた。生産米で200万円の収入が目標という。  

 「家族4人が米作りをしながら、この松之山でじゅうぶん安定した暮らしが営める金額なんです。これには家族全員で仕事を持つことと、習い事や塾など子供に金をかけないという前提があります」

 米需要の減少と増加する過剰米が、ますます米価を下落させるなか、戸邊家の経済状態は、意外にも、豊かささえ感じさせる内容だった。そこで、今年収穫された40俵について、理想生活に、どう配分するのか、併せて、戸邊家の台所事情も明かしてもらうことにしよう。

理想の年収200万円を米作りでどう稼ぎ出すか

 大前提は1俵(60キロ)6万円で25俵を売ること。150万円になる。冬場の仕事として、餅米5俵で自家製餅を製造、50万円を稼ぐ。残りの10俵は自家用だ。この皮算用が実現するためには、何よりも“戸邊米”に対する消費者の理解が欠かせない。田んぼに機械を入れず、ひたすら人力によって、不耕起、無肥料、無農薬、天日干しで作られた、安全でうまい商品であることを分かってもらわなくてはならない。

 確かに、1キロ当たり1000円という米は、一般消費者からすれば高い。しかし、「安心でおいしい米」なら高価でも買われるという評価は、すでにデパートの米売り場で実証済みである。しかもそこでは1キロ2800円という、日本一高い米にもかかわらず、よく売れている。

 余談ながら、世の中には富裕な人が、想像する以上に存在するのだ。筆者の当連載の原稿料では、相変わらず農薬の不安を打ち消しながら安い米を食べるしかないが、近ごろ、ニューリッチなどと形容される経済観念のしっかりした金持ち層は、お金をどう使えば心地良いのか、考えたうえでしか財布を開かないと聞く。

 「米よし」の経営者、北川大介さんは「そうした人たちからも、戸邊さんの正直な米が支持されたのでは」と分析している。

家族のために作った“当たり前”の食べ物に高値が付いた

 ただ、戸邊さんは、高い米を作るために、あるいは、付加価値を高めようと企図して、この農法を選んだわけではない。食と農、自らに課した命題を深めるために、自給自足の道を選んだという経緯がある。たまたま高い値段が付いたといったほうが的を射ているだろう。

 「家族が毎日食べて、健康に害が及ばず、むしろ滋養になり、それでいておいしい、という、当たり前の食べ物を作ろうと決意したんです」

 この根本的な考え方が、けっきょく消費者の求めと合致したということだ。戸邊さんが作る米は、結果的に、いま最も求められる、安全・安心に偽りが無く、おいしさを味わうことのできる米だったということになる。

 戸邊さんは、家族の健康に留意する米作りを何よりも優先させたうえで、次の段階として、どうすれば手塩にかけた米が生産者に割の合う価格で売れるのか、この一点に懸けて商品を作ってきたといえる。農薬が開発される以前の米作りを実践する、という、実にシンプルな方法で、強い競争力を備えた米を産んだのだ。

 政府が奨励する大規模なコメ作りでは、機械を使わず、無農薬で化学肥料を使用しない戸邊方式を採用するのは不可能にちかい。しかし、角度を変えてみれば、モンスーン気候の荒々しい日本の風土の中では、小規模、零細型の米作りが適しているということを、戸邊さんは実証したといえるのではないだろうか。

 さて、40俵の米をどのように売れば、理想生活をするための200万円が得られるのか――。 

 すっかり収穫作業が終わった11月半ば、戸邊家の座敷に米俵が積み上げられて、ようやく、今年の生産米から得られる収入の見込みが分かってきた。

 今年は12俵のコシヒカリと、3俵分の餅を「米よし」に出荷する契約を結んだ。出荷価格は明らかにしてもらえなかったが、100万円を超える収入になりそうだという。「米よし」の北川さんがその値段についてこう話した。

 「価格は戸邊さんに考えてもらいました。かかる経費や人力の手間など、きちんと算出して、戸邊さん自身で決めてください、と申し上げました。戸邊さんの言い値で決めたんです」

後継ぎのために高く売ることは義務だと考えた

 売り値について戸邊さんは、自分の後継ぎのことを重視した。米作りが魅力的な職業であることを、後を引き受ける者に示す義務があると考えたという。また、自分と同じように米作りをし、直販に活路を求める人の、良い前例となることも考慮した。

 収入はさらに、この暮れから始める手作り餅から50万円が見込まれる。友人や知人に販売する1俵6万円の米を合わせると、200万円を超過する。

 生産米による収入のほか、アルバイト収入がある。豪雪地の松之山では冬の間、一人暮らしのお年寄りに「老人憩いの家・松寿荘」という施設で集団生活してもらっている。ここで泊まり番のアルバイトをするのだ。1日4500円になる。それから「松之山郷民俗資料館」でも自給750円ほどのアルバイトをしていて、月額7万~8万円の収入になる。さらに雪掘り(松之山では雪下ろしといわない)の仕事があり、すべて合わせると70万円ほどになる。

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