「自分の欲しいモノを作る」といえば、常套句にすら感じられます。まず、外からの「公」なノイズを排して、消費者としての自分が買いたいものは何なのかをひたすら見つめること。その「私」を商品の中に練り込んでいくこと。言葉にするとなんと簡単そうなんでしょう。しかし、実は「公」は自らが「私」と思っている中にも食い込んでいるのです。商売のネタとしても大事な「私」をどう取り戻すか、これはとても難しいテーマです。分かった振りをしていた編集子も、やってみたらこれが…
(前回から読む)

糸井重里さん(写真:大槻 純一 以下同)
糸井 この間、ちょっと調べたんですが、手帳の市場規模ってものすごく大きいんですよね(※)。その中で、うちはカミキリムシが紙をくちゅくちゅっとやった程度の売り上げなんですよ。もう笑っちゃうぐらい。
※注 手帳の市場規模は9000万冊。企業が配っているものもあるので、市販は2500万冊ぐらい
―― すさまじいサイズですね。
糸井 で、うちが去年でたった23万冊ですから。前々回の例えで言えば、手帳の世界は、まだ日本中に「公用車」「黒い車」ばかりが走っているんですよ。そのときに色とりどりの「公私混同」的な「ほぼ日手帳」は、自動車の世界でいうと「わあ、車って、いろんな種類があって面白いなあ」とみんなが思い始めた時期と、同じような立ち位置にあるわけですね。
―― 手帳が、自らを「公私混同」するためのツールというお話も、あのときお聞きしましたね。実際の効用としてはどうなんでしょう。
糸井 例えば、昔だったらノミニケーションでひとつのチームが「とことん飲んで、抱き合って、ゲロ吐いて」みたいなところで醸成されていた共有感、やりとり、そしてそこから生まれてくるものごと、ってものがあったでしょう。
「それ面白い!」と、最近だれかに言いましたか?
糸井 それが今だと、ノミニケーションの代わりに、「それ、面白いね」という言葉が、感覚が、チームの中でお互いにどれだけ出てくるか。よその人に会っても、内部で打ち合わせしていても、ぽんと何かが出てきて、「それ、面白いね」って言い合えるチーム、これはやっぱり強いと思うんです。そしてほぼ日手帳は、そんな「それ、面白いね」という「公私混同」的な感覚を具現化したものであり、またこの手帳自身が「それ、面白いね」って「私」のアイデアが記される舞台となる。そんな手帳を目指しているんです。
個々の「私」の公私混同から「面白さ」のタネがわいてくる。それをお互いに面白いと思える。生産や管理じゃなくて消費につながる何かが、この手帳の中でうごめいている……。個々の「私」が何を見てきたか、どんな考え方をしてきたか、その人の本当のスタイルや人間としてのは幅がそのまま商売になってしまう。今はそういう時代だと思います。だからこそ、ほぼ日手帳の出番があるんじゃないかな。
―― なるほど。属人的なものに価値が出てくる。
糸井 属人的であるという発想は、一昔前の企業では、よくない発想でした。「この人が辞めたら、どうするんですか。あと、続かないじゃないですか」って。でも、いまは(企業組織も)属人の集団として、人を入れ替え入れ替えしていきながら存続する「村」みたいなものなんですよ。
たとえば、僕自身のことでいうと、「(ほぼ日は)糸井重里がいなくなったときはどうするんですか」ということを、みんな心配してくれるんですよ。
―― 必ず言われるでしょうね。
糸井 これに対してどう答えるか。「僕がいなくなったときに、大丈夫なようにしておくのが僕の仕事なんです」と答えるしかないんですよ。それは野球チームだってそうでしょう。エースが、松坂がいなくなって、大リーグに行っちゃうんですから。
―― 「あらゆる仕事は、属人的なものである」ということを言うのは、すごくはばかられていると思うんですよ。本当のことなのに。
糸井 でも、あったり前ですよ、仕事が個人に帰するというのは。
―― 確かに。ビジネスの世界でも、企業経営についてはみんな具体的な経営者の名前で議論される。会社組織を語るときとはまったく逆に。会社の経営が属人で動いているんだから、現場がもっとそうでもおかしくないですよね。
糸井 まったくそうですよ。だから、どこの会社のかたがたも、僕やほぼ日のことだけ心配している場合じゃないんです(笑)。あなたのところもいっしょですよ、と。
仕事なんて、会社に属していようがいまいが、本来属人的なものなんですよ。お役所のような 「非常に管理的な人」という属人性も含めてね。仕事は属人的なものという時代が、とっくに来ている。来ているというか、もう永遠に不滅ですよ。もちろん、企業のIPOや買収・売却の瞬間に傭兵のごとくやってきて、荒稼ぎして去っていくような方たちは別ですよ。あの人たちはまずほぼ日手帳を買わないでしょう。
―― 買わないでしょうねえ(笑)
自分の中の消費者を見つける難しさ
―― 属人的なものが大事になってきて、その糸口は「公私混同」という考え方にある。それはよくわかったのですが、いざ実際に自分が作り手側に立つと、お客としての自分が「何が欲しいんだろう」ってことが、案外分からないような気がします。
糸井 それはやはり、作る側の人は、どうしても事情、制約、規則、管理、そういうものの中でまず考えてしまうからでしょう。一番大切な「何が面白いか」ってことが分からなくなるんでしょうね。
携帯電話が出始めてごく初期のころから僕は「勝負は薄さとか、丸さとか、そういったデザイン競争で決まるよね」と言っていたんですけど、当時はどの企業も「いや、そんな。技術的に無理なことを言われても」と言っていました。けれどいま、本当にデザインが勝負になっている。いつの間にか作り手側の都合を買い手側の欲望が超えてしまったわけです。
―― なってますね。
糸井 それが買い手の側と、作り手の側の違いですよね。例えば、この手帳の中で一番売れているのはどれだと思いますか?
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