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『1997年――世界を変えた金融危機』竹森俊平著、朝日新書、720円(税別)
1997年という年が、日本のみならず世界の経済史において、極めて重要な年であることが、10年の時を経てようやく固まってきた。
その年、日本では北海道拓殖銀行が都市銀行として初めて破綻し、山一證券が自主廃業に追い込まれた。このほかにも三洋証券やヤオハン・ジャパンなどが倒産の憂き目に会い、金融不安は日本中を覆った。一方、アジアでは通貨危機が勃発し、韓国やタイなどが軒並みIMF(国際通貨基金)管理に追い込まれた。まさに世界の金融市場が揺れに揺れた年だったのである。
経済史では1929年が特筆される年であることは周知の通りだ。ニューヨークの株価暴落をきっかけにした「世界恐慌」が始まった年である。1997年は1929年のような世界経済が破綻をきたすような恐慌には突入しなかった。だが、世界の金融市場は恐慌の淵にまで追い込まれた年だったといえる。
『1997年――世界を変えた金融危機』は、まさにこの年に着目し、その重要性を強調しているまだ数少ない本だ。今後、研究が進んでいけば、この手の著作は数多く現れるに違いないが、わずか10年という今の段階で、この年を抜き出した本書は嚆矢といえる。
「10年前では近すぎる」?
というのも、1990年代後半の世界的な金融混乱の歴史的な評価がまだまだ定まっていないからである。わずか10年ということで、当時、金融政策や銀行経営の一線で活躍していた人たちはもちろん存命している。今なお現役で活躍中の人も多い。だが、彼らは頑なに口を閉ざし、多くを語っていない。
とくに日本の場合、バブルの崩壊で巨額の不良債権を抱え込み、一応の処理をつけるまでに10年の歳月を要した。「失われた10年」である。不良債権と格闘した経営者の多くが刑事責任を問われた。社会の指弾を浴びて自ら命を絶った人も少なくない。そんなムードが残る中で、当時の自分たちの行動をうそ偽りなく語る人はそう簡単には現れないだろう。
本来はジャーナリズムが当事者の言葉を残し、検証を加えることで、歴史的な評価を定める基礎を築くべきなのだが、目先の事象の論評に忙しい日本のジャーナリズムにそうした役割は望むべくもない。日本の学者は世に出た資料を読み込むことには長けていても、歴史の証人を発掘することは自分たちの責任範囲外だと疎んずる傾向にある。
そうした事情もあって、「1997年」当時の日本の状況分析については、まだまだ不十分にみえる。アジア危機に関しては、米国学者の論文や当時の財務長官の回顧録などに拠っているところが多く、分析もそれなりだが、日本に関しては通り一遍の感が否めない。新書という紙幅の限界ももちろんある。それでも、1997年以降の金融を考えるうえでのきっかけ、あるいは入門書としては十分に読む価値がある。
本書で最も読ませる部分は「ナイトの不確実性」を紹介している2章だろう。筆者は学者ということもあり、やや難解な部分もあるが、教科書よりははるかに面白い。
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