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『走ることについて語るときに僕の語ること』は、ジャガイモの皮剥きにちょっとだけ似ている
~天才小説家・村上春樹が走り続ける理由

2007年12月19日(水)

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走ることについて語るときに僕の語ること

走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹、文藝春秋、1428円(税抜き)

 このところの、週末のちょっとした楽しみが、堺正章がゲストとおしゃべりしながら料理をつくるテレビ番組。名店の紹介とともに、職人の手さばき、料理のコツなどが紹介されるのが番組の柱になっている。ただ、ワタシが見入るのは、そこではない。

 「未来の巨匠」というオマケのコーナーだ。取り上げられる三店中の一軒の、下ごしらえを担当するだけで、料理をまだまだ任せてもらえない、ただただキャベツの千切りをする若者の仕事振りを、カメラはじっくり映し出す。

 剥いても剥いても、まだまだ剥かねば。ジャガイモなら大きなタライに山積みになった皮をひたすら剥き続ける。さっと湯通しした素材をきゅっとしめるため、凍り水に手をつっこむ。冷たいとか言っていられないし、そんな表情は顔にださない。しかも、作業が速いし、段取りもいい。手つきひとつに、おおー、プロだと関心する。このときばかりはワタシ、ちょっと心がひきしまったりする。

 シェフから「未来の巨匠」と指名されるだけでも、若者たちにとってはハレの出来事にちがいない。また、番組に顔が出たからといって、彼らが何年か、何十年か後に巨匠になっているとは限らない。なんら保証のない、もしかしたら、皮剥きで終わるかもしれない仕事に、懸命に打ち込む姿がうつくしいのだ。

 未来を決めるのは、うんざりするような下ごしらえの積み重ね。包丁でキャベツを刻みつづけた先に未来は繋がっている。いや、その先にしか未来は繋がってない。本書の頁を捲りながら考えたのは、そんなことだ。

 作家の村上春樹さんは、かれこれもう二十年以上、マラソンを続けている。専業作家となった直後に走り始め、毎年、最低一度はフル・マラソンを走ってきたし、「鉄人レース」として知られるトライアスロンや一日中走りっぱなしの100キロマラソンにも参加してきた。作家で、著名な彼が、こんなにも真剣に走り続けるというのは、世界的にも稀有な出来事だそうだ。

 本書は、なぜ「走る」のかについて、村上さんが、二年間かけて綴ってきたエッセイ集だ。

〈走っているときにどんなことを考えるのかと、しばしば質問される。そういう質問をするのは、だいたいにおいて長い時間走った経験を持たない人々だ。そしてそのような質問をされるたび、僕は深く考え込んでしまう〉

 もっとはっきりいえば、質問するのは、村上さんがマラソンするのを奇妙に思っている人たちだ。

 書き手は村上春樹。本書に対して自然と、読者は「なぜ小説を書くのか」という話に結び付けて読みがちだ。

 二十年続けてきたとはいっても、レースの記録は飛びぬけて優秀でもない。ランナーとしての精神論や技術的なことなら、本にはならなかっただろうし、そんなことを村上さん自身もよくわかっているはずだ。

 なぜ走るのか。

 村上さんは考える。自分が走っているときに何かを考えていたのか。しかし、〈ろくすっぽ思い出せない〉

 無心なのかというと、そうでもない。走っている間は、いろんなことを考える。取るに足らないことばかりで、走り終わると忘れるようなことばかり。邪心を払うとでもいうか、「何も考えていない」空白の状態に自分をもっていく、そのために走るのかもしれないと、村上さんはいう。

 ここで、ワタシは再び冒頭の「未来の巨匠」たちに尋ねたくなるのだ。皮剥きをしている最中、頭の中はどんなことが浮かんでいるのか。村上さん同様の答えをするかもしれないし、もしかしたら彼らはけっこう面白い答え方をしてくれるかもしれない。

〈誰かに故のない(と少なくとも僕には思える)非難を受けたとき、あるいは当然受け入れてもらえると期待していた誰かに受け入れてもらえなかったようなとき、僕はいつもより少しだけ長い距離を走ることにしている〉

 村上さんは、たびたびノーベル賞候補に挙げられるほど海外での評価が高い一方で、国内での批評家たちの評判はなぜか芳しいものではない。一切批評については読まないというが、たまに聞きたくない雑音が耳に入るということもあったりするだろう。

 腹が立ったらどうするか。

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