• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

こうすれば風景は売れる

新潟県・松之山【5】

  • 宮嶋 康彦

バックナンバー

2007年12月13日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 松之山郷の風景は、「売れる」と、この秋初めて訪れた山里で、はからずも直感したことを、3カ月を経て、間違いではなかった、と確信するようになった。「売れる」要素とは、風土・風景の力のことである。

 最近になって読み直した和辻哲郎の『風土』に影響されたかもしれないが、筆者のいう風土・風景とは、その土地に固有の歴史的自然環境を風土といい、風景とは個人の眼差しによって様々に了解される景観のことをいう。

 もっといえば、その土地固有の風景が展開し、風土に旅人を癒す包容力が備っていること、ということになる。

 松之山にはそれらが潜在している。撮影行は頻度を増し、出かけるたびに何がしかの感動を享け、それが作品づくりの原動力になっている。

見過ごされてきた風景が一大観光地になる

 風景が売れる、という実感を、写真家はしばしば持つことがある。ただし、独自に発見した美が、いつまでも変わらず、そこに在ってほしいと願うために、公言をはばかり、場合によっては秘匿することになる。しかし、1枚の作品が、やがて数を増すにしたがって、世の中に知らしめたい、と願望や野心を持つようになるのも、写真家の性癖といえる。

 写真家を含めた映像作家や音楽家や詩人といった、いわゆる表現者といわれる者たちの、社会的な役割の1つは「それまで誰も気がつかなかった美を発見し提示する」ことである。彼らの、一風変わった(と見える)視点が、ときに、世間を喧しくするほどのブームを作ることがある。

 とある、何でもないと見えた光景が、ある日、風景に昇華されたり、思想を生み出す端緒となったり、あるいは、地道な取り組みが一大観光地として生まれ変わるといったことが、確かに、身の周りでも起こっている。

 長野県南木曽町の妻籠宿は、行政と町民が一体となって歴史的景観の保全に成功した先駆的例証だ。合掌造りの民家集落として知られる白川郷は、観光地として世間に認知されていない時代に、ほんの数人の地元の人手によって宣伝の努力がなされ、ついにはユネスコの世界遺産に登録されるに至った。北海道富良野や美瑛の景観は、前田真三という風景カメラマンの創作活動によって、観光の側面から見過ごされてきた畑地の風景が、超人気の観光地になった。

思いもよらぬ被写体が「売れる風景」に

 パリの失われてゆく情景を捉えたウジェーヌ・アッジェ(1857~1927年)の作品は、写真史上において初めて、消えていくものの惜別の情が写し留められていることを、観る者(多くが画家のために撮影された)に教えた。アッジェが撮影した「風景」は相変わらず世界中で売れ続けているし、パリを訪れる観光客は、作品に表された古き良き時代のパリを探すのである。

 石川賢治の『月光浴』は、月の光が照らし出す情趣を写真という装置で紹介し、『竹取物語』以来かもしれない月の神秘を、日本人に改めて知らしめた。最近ではイラストレーターの石井哲の写真集『工場萌え』に見られるように、それまでは「観光」に供することなど思いもよらなかった被写体が、多くの受け手の心を揺さぶっている。

コメント4

「地方再生物語」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック