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選挙に勝って、党の体質に負けた~『自民党で選挙と議員をやりました』
山内和彦著(評:朝山実)

角川SSC新書、720円(税別)

2007年12月18日(火)

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評者の読了時間2時間30分

自民党で選挙と議員をやりました

自民党で選挙と議員をやりました」山内和彦著、角川SSC新書、720円(税別)

 通勤ラッシュ時、駅員さんが人を電車に押し込んだり、幼稚園の運動会でパパさんたちがわが子の動きに合わせてビデオカメラを移動させる。

 ふだんなら、目をとめたりしない光景を、奇妙に見入ってしまう。そんな日常の再発見がつまったドキュメンタリー映画がある。想田和弘監督の「選挙」だ。この春、ミニシアターながら公開とともに連日満席となった。

 ご覧になられていない人のために説明するとしたら、ハリウッドのオスカー俳優が宇宙人に扮して地球人を観察する缶コーヒーのCM、想田監督のアプローチはこれにちかい。

 CMのほうは俳優が潜入捜査官の気分なのに、従事するのは運送やカラオケ店のアルバイトというバランスの悪さがコミカルで、立ち止まり、彼は「なぜこの星の人間は……」と違和感を口にする。昔からある、外国人の見た「おかしなニッポン」の延長にあるミニドラマだ。

 いっぽうの「選挙」は、「ドブ板選挙」の一部始終を追いかけたもの。取材クルーは手持ちカメラの監督ひとり。照明もなし。だから、どこへでも忍び込んでいく。しかも無口。空気のようにそこにいて、質問を浴びせかけたり、コメントを求めたりもしない。ただただ、候補者の行く先々をあるがままに撮影していく。

 それのどこが面白いのか。疑問を抱かれるだろうが、めちゃくちゃに可笑しく、おまけにハッとさせられる。ナレーションや音楽効果も加算されない。ナイナイづくしが新鮮。ベルリン国際映画祭など海外の映画際でも高い評価を受けてきた。

ふつうの選挙にそのまんまのニッポンが見える

 もちろん、やらせはない、見たままとはいえ、監督の視点に沿った巧みな編集がなされている。そこに映っている人たちからすれば、「ああ、しまった」と後悔するであろう場面がけっこうある。

 候補者が、辻で演説している。カメラがパンすると、そこは巨大な団地。四角いハコに向かって、呼びかける。手をふっても、返してくれる人がいるでもない。駅での演説も、通勤客からは無視。だから、近づいても逃げない小学生に握手を求める。カーネルサンダースにすら握手しそうになる。

 笑いを誘う光景から、候補者の留守中の選挙事務所へも、カメラは入りこむ。右も左もわからない新人候補を赤子扱いする、後援会のオバサマ方のあけすけな雑談まで。カメラがそこにいるというのに、まるでお構いなし。辛辣な井戸端会議に、ぎょっとする。

 しかし、いまどきカフェに主婦が集まれば、似たようなもの。ふつうのカメラマンなら、ふつうすぎてカメラを回そうとはしないだけ。おかげで、「選挙」を通して、おおげさにいうと「そのまんまニッポン」がクローズアップされる仕組みだ。

 前置きが長くなったが、この映画の中で幼稚園の運動会に来賓として出席し、居心地わるそうに、それでもなんとか場になじもうとラジオ体操を始めるのが、この本の著者。「選挙」で「主演(?)」を務めた人物だ。

 小泉旋風吹き荒れる2005年秋、川崎の市議会議員の補欠選挙に、「落下傘候補」として出馬。映画は選挙期間中を映していたが、本書では半年前に遡り、「選挙の公募があるんだけど、山内さん、やる気ありますか?」と自民党の関係者から電話がかかるところから書き出している。

 「公募」にあたって、自民党の公認審査を受ける段取りからして、縁故と根回しの政党だというのがわかる。

 著者の山内さんは、選挙に出ることを決意するまでは、切手コイン商を営んでいた。奥さんは、外資系の企業に勤め、はっきりいって、夫よりも稼ぎはいいらしい。

家内に「お」をつけなさい

 以前、自民党の選挙の手伝いをした経験はあるというものの、海千山千の人たちの中に混じれば、山内さんはズブの素人。東大を卒業し「いつか政治の舞台に」と考えていたとはいうものの、脂ぎったにおいがない。

 選挙中、何かと指図され、怒られることの多い山内さん。選挙参謀から、自分の奥さんを紹介するときに「妻」と呼んでいたのをたしなめられる。「家内」というように。

 やんわりとだが、従わなければいけない圧力がある。映画でも紹介されているエピソードだが、「家内」に「お」をつけて演説会場で話すと盛り上がるのだという。

 たしかに、ウケていた。そんなので笑う人がいるのかと思ったけれど。

 改革をとなえながらも、自民党という政党の基盤がどこにあるのかわかりもする。そんな古臭い体質に、キャリアウーマンの奥さんは、不満げだ。しかも、ゆくゆくは会社を辞め、候補者を支えなさいとまでいわれて、プチンと切れてしまう。

 なんとかなだめようと山内さんは、あちらを立て、こちらも立て。立てて、立てて……。驚くほど、忍耐強い。憔悴した顔の奥に、人柄のよさも垣間見える。夫婦の危機を、いかに回避するのか。映画では、観客が思わず前かがみになる名場面なのだが、本書では、さらりとスルーしてしまっている。

 そもそも山内さんに白羽の矢が立てられたのも、学歴があり、40前後の若手で、すぐにでも仕事を辞められる。3つの条件を満たしていたことが大きい。

 落選したあとのことを考えたら、躊躇するのが当たり前である。

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