「NBO新書レビュー」

命は自分のものですか、誰かのために死ねますか?〜『「死」の教科書』
産経新聞大阪社会部編(評:柴田雄大)

扶桑社新書、780円(税別)

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2007年12月19日(水)

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評者の読了時間2時間10分

「死」の教科書〜なぜ人を殺してはいけないか〜

「死」の教科書〜なぜ人を殺してはいけないか〜』産経新聞大阪社会部編、扶桑社新書、780円(税別)

 去る12月14日、長崎県佐世保市のスポーツクラブで37歳の無職男性が散弾銃を乱射、2人が死亡、6人が重軽傷を負った。犯人は事件後に自殺、遺族は怒りをぶつける先も失い、むなしさだけが残った。

 当たり前のことだが、死は誰にでも訪れる。事件の被害者として命を落とす場合だけでなく、病死、突然の事故死、自殺など様々だ。日本ではまず見られなくなった戦死も、世界に目を転じれば、いくらでもある。

 本書はそんな人間の「死」を見つめ直し、死を論じることで改めて生きることの意義を問いただしたもの。産経新聞大阪版の朝刊1面に、06年4月から07年6月まで連載された「死を考える」に加筆した330ページに及ぶ大作でありながら、新聞記事らしい読みやすさから一気に読了した。

 「なぜ人を殺してはいけないの?」

 冒頭から、いきなり考えさせられる。これは、10代の子供たちによる殺人事件を考える公開討論会における、ある若者の発言だ。会場は凍り付き、誰も明確な答えを示すことができなかったという。

 もし私が中学生の息子に同じ質問をされたらどう答えるだろうか。「そんなもの、ダメに決まっているじゃないか」と言って分かるぐらいなら、はじめからこんな質問は出ないし、痛ましい事件や自殺も起きないだろう。

 しかし現実は、今年も父親を金づちでめった打ちにした女子高生など、子供による殺人事件や自殺が相次いでいる。本書の中で紹介されるある小児科医のアンケートには、あぜんとさせられた。

 都内の小学校高学年と中学生400人に「一度死んだ生き物が生き返ることはあると思いますか?」と質問したところ、小学生の3人に2人、中学生の半数が「生き返る」「生き返ることもある」と答えたというのだ。

死とは、残された人の問題でもある

 理由は「奇跡体験を紹介するテレビで人が生き返る話をやっていた」「テレビで生まれ変わりの話をやっていた」というあきれたものだ。こういう発想のもとに「別の自分に生まれ変わる」と言って簡単に自らの命を絶ってしまう子供が少なくない。

 取材班が指摘する原因の一つがゲームの悪影響だ。死んでも何度も生き返るゲームに慣れ、壊れればすぐに新しい物を買ってもらえる子供たちは、一度失ったら二度と戻らないものが存在することが、信じられないのだろうと。

 本書の最大の読みどころは、05年4月のJR福知山線脱線事故によって突然、降りかかった死だ。取材班は1年以上もの長い期間、遺族に寄り添い、心の叫びをくみ取る地道な取材を積み上げてきた。信頼を勝ち得た取材班は、ひとりの遺族から日記をみせてもらう。大学生の長女を亡くした51歳の男性のものだ。

 この父親が怒りの矛先を向けるのは当然、JR西日本だが、その一方で、事故から1年以上経ってなお、自分自身を責め続けている。

 「なんであの電車に乗せてしまったのか」「あの朝、もっと早く起こしていれば……」「いや、もっとゆっくり送り出していれば……」と思いは乱れ、あげくに「こんなところに家を建てなければ娘はあの電車に乗ることはなかった」とまで思い詰める。

 朝、普段と同じように家を出た子供が、突然の事故に巻き込まれ、二度と帰ってこない。そのときの親の心境を赤裸々につづった日記には、ひとりの親として、私も胸が詰まった。そして取材班はこう問いかける。

〈死とは死者の問題だろうか。それともこの世に残された人々の問題だろうか〉

 とりわけ「自殺」は、残された家族にとって最もつらい死だろう。本書によれば、05年の自殺者は全国で3万2000人を超え、16分に1人が自殺をしている計算になるという。

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著者プロフィール

柴田雄大(しばた・ゆうだい)

経済ジャーナリスト。1985年早稲田大学卒。国会議員秘書など経て、現在は経済誌などを中心に執筆活動中。専門は金融、証券分野。欧州在住経験あり。趣味は野球観戦。少年野球、高校野球、大学野球からプロ野球まで、ネットでエッセーなどを執筆している。

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