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男ってホント、理屈づけが好きなんだから~『松田聖子と中森明菜』
中川右介著(評:島村麻里)

幻冬舎新書、820円(税別)

  • 島村 麻里

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2007年12月21日(金)

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評者の読了時間3時間20分

松田聖子と中森明菜

松田聖子と中森明菜』中川右介著、幻冬舎新書、820円(税別)

〈モーツァルトとベートーヴェンのことを書くように、平塚らいてうと伊藤野枝のことを書くように、松田聖子と中森明菜のことを書く〉

 冒頭の宣言でぴんと来て、「参考文献」にいきなり飛んだら、『よい子の歌謡曲』に『週刊本』。やっぱりなぁ、である。ちなみに前者はアイドル評論の投稿誌、後者は週刊ベースのペーパーバック。いずれも80年代のマニアックな読み物だ。

 読み終えた後もくすくす笑いが止まらない。

 とりわけ1960~72年くらいの間に生まれた人は、評者の読後感を共有して下さるはず。時代が、あの頃の自分(たち)が、出来れば裏庭に埋めっぱなしにしておきたい恥ずかしさもセットで、「還って」きまっせぃーー!!

 「ソニーはこの子でポスト百恵を狙うらしいよ」

 「うそぉ、こんな顔で??」

 1980年春。デビュー曲「裸足の季節」のジャケ写を前に、評者を含む某ラジオ局の新入りディレクターはあ然とした。だが、山口百恵のアンチテーゼとして登場した「ぶりっ子」は、またたく間にヒットチャートを駆け上がって行く。

 著者は、松田聖子と、そして彼女のライバルとなる中森明菜の〈革命と闘争のドラマ〉を追いつつ、エイティーズ邦楽シーンの検証を試みる。

「天国のキッス」を今でも歌える?

 とりもなおさずそれは、テレビのベストテン番組や賞獲りレースが歌手のステイタスを決め、視聴者の多くが「紅白」で歌われる曲を口ずさめる時代であった。「ダンシング・オールナイト」と「哀愁でいと」が聖子の「青い珊瑚礁」と同年のヒットであったとか、82年デビューの明菜の同期生は? と問われたら、小泉今日子に堀ちえみに早見優……くらいの歌手名ならすんなり出る、とかいったことだ。

 徹底してアイドルという虚構に生きる聖子の「無意識」に対して、そのつもりがなくとも自分自身を歌っていると受け止められ、つい、不幸の匂いをまき散らせてしまう明菜の「自意識」。著者は、そんなふうに〈相反する思想と戦略を持った二人の歌姫〉のバトルの構図を、80年代ヒットチャートの推移を軸に展開する。

 「半年過ぎても手を握ってくれない」彼、だけどそんな「あなたの生き方が好き」と歌われた「赤いスイートピー」を」はじめとする歌詞分析は、本書でもっとも冴えている部分。なかでも松本隆作詞の聖子ワールドに、著者は最大の関心を寄せているようだ。

 「思わせぶりな記号が散りばめられた」という点における、松本隆&聖子の歌詞世界と村上春樹作品との類似性。「天国のキッス」で繰り広げられる全面的な自己肯定(&陶酔)。松本隆と聖子によって、日本の歌謡曲が「自虐的」から「ドライで軽い」世界へと変革したこと――。

〈松本隆&松田聖子の歌詞をめぐっては、ごく一部のマニアのあいだでは、さまざまな論争が展開された〉

 語っても語っても止まらぬ想いの迸り。そう、80年代とは、オーディエンスが「語り」始めた時代であった。

 「筒美京平研究」「明菜と来生(えつこ・たかお)姉弟との出会いは、百恵における阿木・宇崎コンビ同様、吉と出るのか、否か?」……。

 「よい子の歌謡曲」にはその種の投稿が溢れていたし、キョンキョンはいわゆる新人類連中がポストモダンを「論じ」るのに格好の対象となった。70年代の洋楽に浸り、耳の肥えた男の子たちが、アイドルやその楽曲について小難しく「語る」ようになったのだ。新人類よりちょい上世代の評者も、「ラテンの明るさと哀愁が絶妙にブレンドしたトシちゃんのノリ」などと、「よい子の歌謡曲」に投稿した過去を有する(没ったが)。

 1960年生まれで、オタク第一世代を自認する著者(現在「クラシックジャーナル」編集長)はおそらく、20年来溜めに溜め込んだ「語り」を、本書で一挙に吐きだしたのだろう。くすくす笑いが止まらぬ読後感とは、まさにここ――男ってホント、理屈づけが好きなんだから――って、褒めてるんですよ、ちゃんと。

 もっとも、当時から30年近く経ったいまだからこそ、見えてくることもある。

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