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孤立が人間から倫理観を失わせ、暴走させる
~『暴走老人!』著者・藤原智美氏【その2】

2007年12月26日(水)

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── 『暴走老人!』を読んで思ったのは、暴走する人たちは老若にかかわらず、ひとりであること。二人、三人の状態なら暴走にいたらずに終わる。互いにうっぷんを口にしあえば、ブレーキがはたらくということなんでしょうか。

藤原智美氏

藤原智美(ふじわら・ともみ)氏
1955年福岡市生まれ。92年に『運転士』で第107回芥川賞受賞。その後、小説創作のかたわらドキュメンタリー作品も手がける。住まいと家族関係を考察した『「家をつくる」ということ』(講談社文庫)はベストセラーに。最新刊『暴走老人!』が大ヒット中。

 「感情にブレーキをかけたりするのが、言葉ですよね。『あきらめる』というのは言葉によってしかえられないことで、失恋したときにわかると思うんだけど、ああじゃないこうじゃないと自分を納得させるまでに三カ月くらい時間がかかる。

 失恋というのは、人間にとって、いちばん考えるイベントでしょう。それが一年なのか、一カ月かはともかく、なぜ失恋したのかを考えた。でも、いまの人は心理学の本に頼ったり、カルチャーセンターを受講したりして、他者に答えを求めてしまう傾向にあるように思います」

 失恋でいうと、どうもいまの恋愛事情は、恋愛と失恋の間隔が短くなっている。恋人が何年もいないという人が一方にいて、恋愛と失恋を切れ目なく繰り返す人がいる。両極端な二分化が進行しつつある。

 「いまは、嫌われそうな予感がすると、先手を打ってつきあいをやめるといったふうに、恋愛における人との関わりが変質している。そういう意味では、自分を見つめる時間が減ってきている。

 一方で、老人というのは、そうした葛藤は終わったもの。無関係な領域にいたった人たちだと思っていたんだけど、実はそうじゃないんですよね」

── 「老人」といえば、小津安二郎の映画に出てくる笠智衆のイメージが浸透していました。それはいまや幻想となりつつある。

 「何も考えていなさそうで、考えているふうでもある。無口なんだけど、一言にいろんなことがつまっているんだろうと想像させる。笠智衆のような老人は見かけなくなり、いまは、やたら元気で歩き回る、趣味をたくさんもっている老人が多いんですよね」

退職したのに予定がびっしり!?

── 定年退職して、のんびりするどころか、忙しさをアピールする人が増えている。うちの父は、カレンダーに来客予定をびっしり書き込んでいるんですが、お坊さんがやってくるか、何かの集金日なんですね。

 「それはうちの親父もそうでしたね。もう忙しい、忙しいという。カラーペンで書き込んでいるのが、僕が帰省する日だとか、病院。忘れたらいけないから、と言うんだけど。でも、それを失くすと、自己をどう組み立てていいのかわからなくなるんでしょう。

 老人であっても、情報環境の中に気分だけははまりこんでいる。スケジュールが埋まっているというのが、リタイアしたあとも理想像であることは変わらない。あり余ったエネルギーをどうするのか。デジカメをもって出かけていくのも、ひとつではあるんでしょうけれど」

 いまやカメラは、老人にとっては長く楽しめるアイテムになっている。まず、機種選びで盛り上がる。教室に通い、上達すると、上位機種に買い換える。写真の年賀状を作ったり、個展を始めたりとイベントは続く。

 「でも、グループに入ってやっている人はいいんですよ。ヤマハの音楽教室なんかでも、シニア向けのものがあるんですが、まわりに溶け込もうとはしない人がいて、自分ひとりで、ああでもないこうでもないとやっている。そういう人は言葉の能力が落ちていってしまう」

暴走は人間関係SOSのサインかもしれない

 暴走しない、させない歯止めは、人間関係にあると藤原さんはいう。

 「よく会社務めを辞めたとたん、暴走するというのを耳にする。裏返せば、仕事の人間関係があれば、そんなには暴走しにくいということですよね。あと、隣近所の付き合いが濃密にあれば、暴走することもない。

 たとえば、高齢者の万引きが多いんだけれども、調書を取られて帰ってくる。昔だったら、そんなことは近所の人にすぐに知れ渡ったりしていたのが、近隣の付き合いが薄れてしまっていると、平気でいられるわけです。

 個人の倫理観を支えてきたのは、これまでは、近隣の人間関係だった。周囲の目を気にするという。そこで生きていかざるをえない人間関係があればこそ、それがタガになっていたわけです」

── それは〈世間〉というものに繋がるものだったりするんでしょうか。

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