装飾性やライフスタイル的価値観から語られることが多いデザイン。
その社会的機能に注目するのが坂井直樹氏だ。
1987年、日産自動車の「Be-1」をデザインし、自動車業界に一石を投じたことで知られる。
製品のコンセプトから考えてデザインをプロデュースする「コンセプター」は、デザインは重要な経営資源と説く。
── この本では、オーガニックデザインからアップルの「iPod」、コクヨの「カドケシ」など、デザインにまつわる様々な商品、事象を取り上げて、縦横無尽に語っています。坂井さんから見て、デザインとはそもそもどのような機能を担っているのでしょうか。
『デザインの深読み』
坂井直樹著、トランスワールドジャパン、1600円(税別)
ISBN978-4-86256-006-3
坂井 “アップデート”するというのがデザインの特徴の1つではないでしょうか。例えば日本では携帯電話の新製品が1年間に4回、市場に投入されます。1回ごとに電話会社1社から10台ぐらいの新製品が出ますから、年間で140から160のデザインが投入されている。消費者は自分が使っている携帯のデザインに飽きてしまうから、買い替えるわけです。
飽きるということは、言い方を変えれば、市場を再生しているんですよ。まだ着られるのに新しい洋服を買う。まだ使える腕時計や携帯電話があるのに、買い増したり、買い替える。こうした消費行動を引き起こすのが、デザインが持っている社会的機能だと思います。
例えば、ドイツの自動車メーカーのアウディ。クルマの前面のグリルを上下に分けていましたが、これを上から下までつなげて1つの大きなグリルにしたんです。こうなると前のデザインが古くさく感じられ、乗っている人は気恥ずかしくなる。誰もそんなふうに見ていないのに、乗っている本人がそう思い、慌てて大きなグリルの新しいクルマに買い替える。
要するに、すでにある製品を消滅させる力がデザインにはある。壊して再生する。この視点では、実はあまり語られていない。デザインは、装飾性とかライフスタイル的世界で説明されていますが、実は社会システムの中で在庫処分機能を持っているんです。
── 日本企業はデザインが経営資源だと理解し、十分に活用しているでしょうか。
坂井 デザインは企業のイノベーションに非常に密接に関わっています。それにもかかわらず、経営システムの中で理論化されているとは思えません。
『デザインの深読み』の著者、坂井直樹氏(写真:乾芳江)
企業という組織の中で、デザインという職種は極めてマイノリティーなんです。デザイン部門の人員はNECやソニーのような企業でも100人ぐらいでしょう。自動車メーカーだと数百人以上になりますが、いずれにしろ、企業の中で1%にも満たない。デザインにかけているコストも、宣伝費の1%ぐらいですよ。デザインが持っている機能を十分に理解しているかというと、コスト面から見る限りでは理解していないと言えます。
海外のメーカーは違います。例えばアップルなんかでは、ジョナサン・アイブのように年収何億円というデザイナーがいるわけですよ。CEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズがデザインの意味をきちんと理解しているからです。ナイキのCEOのマーク・パーカーもそう。ルイ・ヴィトンなんかは社内に建築家まで抱えていますからね。
── 経営者がデザインの重要性を理解しているわけですね。
坂井 非常によく理解している。アウディもポルシェも、フェラーリもそう。たぶん経営者自身、好きなんですよ、デザインというものが。
昨今、ブランディングが叫ばれていますが、デザインなくしてブランドは成立しません。デザイニング、ブランディング、マーケティングは、企業として三位一体でオペレーションしなければならない要件だと思います。
── 本書でも書かれているように、日本では各キャリアが似たデザインの携帯電話を次々に発売しています。デザインによってブランドを作ろうという意志があまり感じられません。
坂井 日本の企業は、どこもそうですけど、シェアを1%でも高くしたいわけです。そうなると、作る製品は他社と似ている方がいい。極端に違うものを作ると、リスクが増えますからね。他社に近いもので、ちょっといいものを作る。シェア争いの中で製品デザインの統一化が始まります。
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