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記録メディアとしての「からだ」

  • 小橋 昭彦

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2008年1月15日(火)

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ムラからの手紙

 今年のお正月も、左手に豆をこしらえて迎えました。それというのも、年末になると家に飾る注連縄をなわなくてはならないからです。年に一度のことですから、手のひらの皮を丈夫にするとまではいかず、毎年豆を作っている次第です。……と書きつつ、あなたにとって呪文のような文章になったのではないかと心配しています。というのも、これはぼくも驚いたのですが、近所に住むぼくと同年代の友人でさえ、注連縄をなう人はほとんどいないのです。ましてやあなたにとっては、ずいぶん遠い世界の話でしょう。

 友人たちも注連縄をなえないというのは、お飾りを自宅でなうのが習慣だったぼくにとって、ちょっとショックでした。どうやら注連縄をなうことは、たまたまわが家では祖父や父が子どもに手伝わせていたから伝わったのであって、この集落では廃れかけていると考えていいようです。そうなるとまるでぼくが集落の無形文化財になっちゃいますね。いやはやです。

ワラは稲の茎、それは知ってますよね?

 注連縄はご存知ですね。お正月に神社などに飾ってあります。ワラを利用し、そこに榊や松、ウラジロなどを飾って完成させたものです。形はいろいろあります。ゴボウといって一文字のものもあれば、メガネといって輪がふたつ広がっているものもある。我が家で作るのは主にメガネです。玄関だけではなく、建物ごとにひとつずつ、さらには井戸やトイレなどにも準備します。数にすると、毎年十数個が必要になります。牛小屋や物置小屋なども一棟と考えて準備しますから、どうしても数が増えるのです。

 作るにはワラが必要です。ワラは、稲刈りをした後、お米の部分をとって残った茎部分を乾燥させたものですね。コンバインという機械で稲刈りをする今では、ワラは粉砕して田んぼに戻します。むしろやぞうり、縄などの日用品を作る必要も無くなりましたから、意識しておかないと、ワラさえ農家に無いのが現状です。

 さて、ワラは葉などをそいだ後、木槌で打って柔らかくします。その上で、手に水を取り、一握りのワラを二つにわけて、両手の間にはさんで、こすり合わせるようにして、ねじっていきます。これを繰り返せば、互いにまき合った縄ができるのです。注連縄をきれいに整えるためには、ここにあと一束同じように巻きます。三つ編みの要領です。メガネを作るには、縄をもう一本つくり、対称になるように輪を作ります。

 さて、はたしてこれであなたに注連縄作りが伝わったでしょうか。写真を、さらには動画を添えれば、よりイメージは伝わりやすいでしょう。ただ、それでもやはり決定的に伝わらないと思うのは、こうしていくら言葉を費やし、あるいは映像を重ねても、あなたが注連縄を作れるようには、きっと絶対になりませんよね。頭で理解できたとしても、身にはつかない。

 ああ、そう、まさに日本語の通りです。「身につく」とは、そういうことなんです。自分の身体で再現できるようになる、そうなって初めて、身についたと言える。ぼくは最近、このことについてよく考えます。田舎の文化、里山の文化を残したい、伝えたいと考え続けていることもあり、作法とは何か、文化を伝えるとはどういうことかと、ずっと考えています。その中で、身体性のことがたえず脳裏を巡ります。

無形文化はアーカイブ化できるか

 文化を保存する場合、ひとつの手法にデジタルアーカイブがあります。しかし、いわゆる無形文化財においては、そもそもデジタル化ができない。撮影して動画として保存することは可能でしょうが、それだけでは、今お伝えした理由で、その文化を伝えたことにはならない。身体を通じた経験がないと、再現できません。再現できないものは、伝えたことにはならない。

 デジタル技術がいくら進んでも、ロボットやアバターが身体性を備えるようになるには、まだ時間がかかるはずです。人間を真似して注連縄をなえるようなロボットが登場したり(もちろん、注連縄を作るというただそれだけの目的ならば、機械的に別の方法で行うことは可能でしょうが)、仮想空間で別のアバターから注連縄を指導してもらい、それを持ち帰って現実空間でもなえるようになっている、といったことを実現するには、技術的な課題が多くあることでしょう。

 あれは映画「マトリックス」だったでしょうか、主人公がある種の技能をプラグを通してデータ転送して身につける設定がありましたね。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官