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「腐敗の告発者が殺された」~ロシアの暗闇にカメラが沈む

「暗殺・リトビネンコ事件」・ネクラーソフ監督インタビュー【前編】

2008年1月17日(木)

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 「友人が殺されたとしたら、あなたはどうするか?」

 映画監督であるアンドレイ・ネクラーソフさん(49歳)は、映画をつくった動機をこう語った。「事件に目をつぶるのは、卑怯だ」

 「私の身に何かあった時は、このビデオを公表し、世界に伝えてほしい」

 アレクサンドル・リトビネンコ氏の遺言めいた言葉ではじまるドキュメンタリー映画「暗殺・リトビネンコ事件」が、東京都渋谷区の「ユーロスペース」で公開中だ。

 事件は、2006年11月に起きた。リトビネンコ氏は元ロシア連邦保安局(FSB)中佐で、ロンドンに亡命中の出来事だった。ロシア国内では、独裁色を強めるプーチン政権内に批判的なジャーリストが何者かに暗殺される事件が多発しているが、国外で、しかも耳慣れない「ポロニウム」という放射性物質が暗殺の道具として使われたことから、世界の注目を浴びることになる。

 映画は、スパイ映画を地でいく事件の真相に迫ろうとする。生前のリトビネンコへの五年にわたるインタビューを中心に、数多くの貴重な証言を重ねていく。

 背景を知るほどに、ロシアが抱える闇に、まるでソ連崩壊前へとネジを逆回転させたかのような、不安を観客は抱くことになる。ホラー映画の何倍も悪寒が体内を走った。

 今回、来日中のアンドレイ・ネクラーソフ監督に話を聞く機会を得た。日本では、政治家の汚職や役人の贈収賄事件がマスコミを賑わせ、領収書のコピーがどうだと騒いでいるときだった。映画を見終わったとき、腐敗は恥ずべきことだが、日本のそれはとても牧歌的な国に思え、皮肉な幸運をかみしめていた。

 「いい人と悪い人というふうに、本来は簡単にカテゴライズできるものではないのですが、しかし、そうしなければいけない状況があるということをご承知いただけたらと思います」

 型通りに名刺を差し出すと、ネクラーソフ監督は、すこし待ってくれといった。

 ホテルの便箋をカットし、ボールペンで自分のアドレスなどを書きはじめ、「これは世界で、これひとつだから」と返してきた。硬い表情が和らぎ、チャーミングな笑顔だった。

 監督の言葉は、質問というよりもワタシのこんな感想を受けてのものだった。

善悪がはっきりと映し出される理由

── スクリーンに映し出される人物をしばらく見ていると、誰が「悪人」で、誰が「いい人」なのか、これほど一目瞭然に映し出されることに驚きました。FSB(ロシア連邦保安局)の将校だったリトビネンコは、多少神経質にはみえますが、家庭のある普通の人。いっぽう、彼の元上司である男性は、落ち着いた物腰なのですが、まるで暗黒街の顔役のように思えました。

アレクサンドル・リトビネンコ氏(『暗殺・リトビネンコ事件』より)

『暗殺・リトビネンコ事件』(2007年、ロシア)
監督:アンドレイ・ネクラーソフ
渋谷・ユーロスペースで公開中。2月、大阪第七劇場で公開ほか全国順次公開
公式サイト http://litvinenko-case.com/
(C) Dreamscanner productions 2007

 「自分自身は、ドキュメンタリー映画に限らず、劇映画も撮ります。芝居の演出もしています。その中で、善し悪しについて、いささか子供っぽい表現で説明しなければいけなくなるときがあります。

 たとえば、政党、選挙、汚職といった話は、世界に共通している言葉のように思われがちです。しかし、ロシアでは、これらの言葉の背後に隠れているものは、ほかの国のそれとは異なるものです。

 ロシアの政治エリートに対する不信感は強いですし、ロシアにおける民主主義と、ロシアの外の国の民主主義とは、まったく異なります。

 言葉だけでは一見同じレベルで話をしているかのような錯覚を抱きがちですが、概念の違いを埋めようとすると、この人物はいい人だとか悪い人だといったレベルから始めなければいけなくなるんですね」

 もともと、ネクラーソフ監督は、劇映画を撮りたくて映画の世界に入った。タルコフスキーの「サクリファイス」で、タルコフスキーの助手として現場と編集に関わったのが出発点になっている。

 だから、人間を単純に「善と悪」で二分するような映画を作るということ自体、彼の意図からは離反したものだったにちがいない。それでも、複雑な暗殺事件の真相をつきつめようとすると、ある程度、単純化することも必要だった。

 映画をしばらく眺めていると、ロシアの事情に無知であっても、リトビネンコがインタビューに答える場面になると、緊張とともに不思議な安堵を覚えることだろう。誠実な話しぶりに。旧KGB(ソ連国家保安委員会)の諜報部門にいたという先入観からは遠い、真摯な姿勢に。

 特殊な仕事人である前に、リトビネンコは家庭を大事にする人間だった。妻と子供と三人で散策に出かける場面から、彼を家族から奪い去った、見えないグループの存在を心底、恐いと感じた。

── これは、リトビネンコの暗殺がなければ映画とはならなかったものなのでしょうか?

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