「降旗 学の「長目飛耳」」

クリスマスと、窓際の魔女

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2008年1月18日(金)

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 街はクリスマスイルミネーションに彩られている。

 その華やかさが儚くも映るのは、ネオンのような蛍光色を用いていないからか。それとも、その瞬きがかりそめの美しさとわかっているからなのか。

 店頭では、サンタクロースのコスチュームに扮した売り子さんたちが声を張りあげてクリスマスケーキを売る。それすらも、去り行く夏を惜しんで鳴く蝉の鳴き声のように虚しく聞こえてくる。

 時刻は、間もなく午後八時。

 売り子さんたちは店終いの準備に取りかかろうとしていた。あと数時間で、イルミネーションの明かりも消されるのだろう。明日の朝、ここを歩けば、何ごともなかったかのように街並みは装いを一変させているはずだ。今日は12月25日なのだから。

*   *   *

 最初は、不機嫌なのかと思った。

八木徳子氏

八木徳子氏 (写真:矢内 耕平、以下同)

 八木徳子(やぎ・のりこ)は黙々と作業をし、カメラを向けても、にこりともしなかった。彼女が本当はよく笑うお嬢さんだということは後日に再会して初めてわかるのだが、最初の印象は、愛想のない子だ、というものだった。

 「違いますよ。あたし、人見知りしちゃうんです」

 そう言ってけらけらと笑う。
 本当によく笑うので、てっきり20代だとばかり思っていたら、34歳になると聞いて二度驚いたほどだ。

 「この前の子年には、もういまの仕事をはじめてましたよ」

 彼女の仕事は、デコレーターだ。
 デパートのショーウィンドーのディスプレーや、店内の飾りつけを専門にする。

 クリスマス当日、彼女は東戸塚西武にいた。クリスマスが終わるのを待って、深夜から翌朝にかけてディスプレーを変更するデパートもあるが、西武は営業時間内に年末セール用のディスプレーを用意しているらしい。日のあるうちに仕事に取りかかるのは彼女も久しぶりだという。毎年、クリスマスは徹夜で作業に及んでいるのだ。

 午前10時に西武の担当者とミーティングに入り、10時半には撤去作業がはじまっていた。五人のデコレーターでチームを組み、二手に分かれて現場に向かう。デコレーターは、いずれも女性ばかりだ。

 ミーティングルームを出た彼女たちは搬入用のエレベーターに乗り、五階で降りた。フロアのサービスゾーンと呼ばれる場所に展示されているギフトボックスを片づけ、男性のマネキンが着ている洋服を脱がせにかかる。

ディスプレー風景

 次いで、三階に移動。こちらには黒のカクテルドレスを纏ったマネキンが展示されている。同様にドレスを脱がすと、上半身を取り外した下半身をひっくり返し、ブーツとストッキングを脱がせていく。四階の正面アトリウム口と呼ばれる入口にあるショーウィンドーでも、手際よくマネキンのドレスを脱がせていた。

 裸になったマネキンは、首だけ出してシーツをかぶせていくのだが、彼女はマネキンを座らせると、足を組ませ、女性が裸でバスタオルのみを覆っているかのように仕立てていた。営業中の撤去作業だからの気配りなのだろう。あるいは、デコレーターという職業ならではの繊細さなのかもしれない。私には、撤去中のディスプレーでありながら、シーツをかぶせたマネキンはそれだけで何かを表現しているようにも見えた。

 搬入用のエレベーターでも、彼女は、小物を入れたバスケットを先輩が手にしているのを認めると、わたしが持ちますと言ってさりげなく受け取っていた。なかなか気が利く女性ではあるらしい。

 だが、午前の撤去作業中、彼女はずっと不機嫌そうな顔をしていた。

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著者プロフィール

降旗 学(ふりはた・まなぶ) 

ノンフィクションライター。1964年、新潟県生まれ。神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。96年、第3回小学館ノンフィクション賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』『敵手』『松坂大輔 証明』他、剣崎学のペンネームで書いた『都銀暗黒回廊』など。
近著は『草野球をとことん楽しむ』(新潮新書)。 本ウェブ連載「長目飛耳」をまとめた『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)



このコラムについて

降旗 学の「長目飛耳」

本コラムが単行本になりました! 『世界は仕事で満ちている

テーマは“仕事と夢と男と女”。世の中にはこんな仕事もあるのかというような仕事、知ってはいるけど実態までは知らない仕事がある。そんな仕事に生きがいを見いだす人、夢に向かって走り続ける人、そして、仕事と恋の狭間で揺れる人々の思いを活写するルポエッセイ。タイトル「長目飛耳(ちょうもくひじ)」とは“遠くのことをよく見聞する耳と目”の意。

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