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第19回 和歌や中国の故事を絵画化

『詩歌写真鏡』『百人一首うはかゑとき』を制作

  • 内田 千鶴子

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2008年1月22日(火)

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 日本橋馬喰町の版元・森屋治兵衛は1833(天保4)年、北斎に、中国と日本の有名な歌人や詩人を挙げ、その文学的業績や逸話を絵に取り組んだ『詩歌写真鏡』長判縦絵(52.1×23.2センチ)10枚シリーズの作画を要請した。

なぜ漢画様式の『詩歌写真鏡』を制作したのか

 その内訳は、日本の歌人である「春道のつらき」「在原業平」、奈良時代に遣唐使として唐に渡り、日本へ帰ることなく唐で没した「安倍の仲麿」、女流歌人「清少納言」、古今和歌集や後撰和歌集に歌を詠んだ嵯峨天皇の皇子・源融(とおる)こと「融大臣」、中国唐時代の詩人「李白」、「伯楽天」、崔国輔の詩を絵画にした「小年行」、日本の謡曲4番目より「木賊刈(トクサかり)」、そして北宋時代の詩人で書家の「蘇東坡」の計10枚である。

 北斎は、2年前の31(天保2)年から32年(天保3)年にかけ、日本橋馬喰町の版元・西村永寿堂と組み、当時入手困難だった舶来の顔料、ベロ藍を使い、洋風描写を駆使した『冨嶽三十六景』シリーズを刊行し、大成功を収めている。

 その直後になぜ、北斎は日本の古典や中国の故事をテーマとした漢画様式の濃い『詩歌写真鏡』に手を染めなければならなかったのか。

 おそらく、24(文政7)年から26(文政9)年にかけ、オランダ商館付医官として来日していたフランツ・フォン・シーボルトから、北斎が日本の風俗画40枚を依頼され、それを禁制品にもかかわらず手渡していたことや、その後28(文政11)年に起こったシーボルト事件の影響を恐れ、洋風表現では描けず、作風を変えざるを得なかったことが背景としてある。

トクサで磨いた「板ぼかし」などの技法を駆使する

葛飾北斎 『詩歌写真鏡・在原業平』 東京国立博物館所蔵

葛飾北斎 『詩歌写真鏡・在原業平』 東京国立博物館所蔵 Image:TNM Image Archives

 『冨嶽三十六景』刊行の後、これまでに見てきたように、北斎は西村永寿堂から33(天保4)年に大判錦絵『諸国瀧廻り』8図、34(天保5)年にも横大判錦絵『諸国名橋奇覧』11図を続々と発表している。

 『諸国瀧廻り』のうち「木曽路ノ奥阿弥陀ケ滝」でも漢画様式を取り入れ、北宋時代の山水画に見られる滝を下から上へと見上げる「高遠」、高い視点から見下ろす「俯瞰」という2つの技法に加え、崖に生い茂る木々の描法に立体感を出す「点描」も試みている。

 『諸国名橋奇覧』のうち「足利行道山くものかけはし」でも、画面左方に湧き上がる雲の中にそそり立つ断崖も北宋様式の特徴を表すものである。

 『諸国名橋奇覧』や『詩歌写真鏡』は、北斎が江戸を離れて浦賀に潜居していた頃か、江戸へ戻った直後に制作されたと考えられるから、浦賀に潜んでいた時期に洋風表現を断念し、作風を漢画様式に切り替えていったのだろう。

 『詩歌写真鏡』にもベロ藍の使用や板ぼかし(ぼかす部分を絵の輪郭より広めにとって彫り、周囲をムクの葉やトクサなどで磨き、傾斜をつけた状態で摺る技法)を駆使しており、空や水の表現が微妙ですがすがしい。

 『詩歌写真鏡』の「木賊刈」は謡曲4番目「木賊」に素材を得ている。謡曲「木賊」のあらすじは次のようである。信濃国園原山で、旅の僧と従僧一行が幼子と生き別れた木賊刈りの老人と出会う。別れた子の名は松若。僧一行は導かれるまま老人の家に立ち寄る。彼は僧に盃をすすめ、別れた子の話をし、我が子が舞った時の衣装をまとって踊り、酔って、泣き伏してしまう。そこで、僧の一人が生き別れた幼子は自分であることを知り、感涙にむせびながら親子は再会を果たす。

 北斎はこの物語を、深い緑色の木賊が辺り一面に生える園原山周辺にポイントを絞る。彼方には、夕暮れ時の伏せ屋の森のホウキグサの影に、白い月が薄っすら浮かぶ。刈り取ったトクサを背負う老人が木橋を渡る。かたわらの池にはベロ藍の透明感ある明るい青が広がり、2羽の水鳥が羽を休めている。

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