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自分で採る虫採り、人からもらう虫盗り

2008年1月23日(水)

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 虫採りにもいろいろやり方がある。いちばん楽なのは、他人の採った虫を貰ってくることである。そりゃ虫採りじゃなくて、虫盗りじゃないか。まあいちおう、あるような、ないような、持ち主の了解を取っているから、いいのである。自分が貰うときは、そう思うようにしている。

 たいていの人は、自分の好きな虫というのがあって、それを採ろうとする。でも虫は多いから、どうしても別な虫も採れてしまう。私だって、カブトムシやカミキリムシをつい採ってしまう。それはむろん、人にあげる。逆もまた真で、人からも貰う。ゾウムシのいい点は、欲しいという人が少ないので、くださいというと、たいていの人がくれることである。やめられませんなあ。

 十一月に松山の愛媛大学に行った。講演やら虫取りで、松山には何度も行ったが、大学に行くのははじめてである。 大学院の人たちがラオスに虫採りに行き、ゾウムシを採ってあると連絡してくれた。それをくれるというから、講演旅行のついでに勇んで松山に行った。

最初に鹿児島に行って泊まり、つぎに広島に行って泊まり、広島から高速船で松山に行って泊まった。その次の日は大阪で泊まり、奈良県の桜井市に行って泊まり、さらに神戸に泊まってやっと家に帰った。六泊七日の一週間の旅だった。松山以外は全部仕事である。

 よくやるよと、自分でも思う。おかげで虫のための時間がない。それは自業自得で、だれにも文句はいえない。

 松山に行った日は、本当は自宅に帰る予定だったが、虫をくれるとなったら、予定は関係ない。おかげで貰った標本箱をその後の四日間、持ち歩くことになった。それでもまったく苦にならない。これがふつうの荷物だったら、ブツブツ文句をいって、周囲はうるさくてたまらなかったであろう。もっともふつうの荷物なら、宅急便で旅先から自宅に送ってしまう。

 虫は送らない。自分で持ち歩かないと、信用ならない。ゴツンとどこかにぶつけられたりすると、標本が台紙から剥がれて、散らばってしまうかもしれない。そんなことになるとデータが不明になる。どの虫がどの紙に貼ってあったか、それがわからなくなる可能性がある。だから自分で持ち歩く。自分でぶつけたなら、諦めがつくというものである。

 貰った虫をときどき宿で覗いてみる。ただでさえ老眼で、小さいものは見えないのに、小さいゾウムシの標本が裸眼で見るわけがない。でも見たい。ホテルで眺めて、これはあれだな、あれに違いないなどと勝手に決めて、ニコニコしている。一人で泊まっているからいいようなものの、だれか見ていたら、不気味な光景であろう。たがめつ、すかしつ、というのは、こういうことをいうのだと思う。なにしろよく見えないんだから。

ヒゲボソゾウムシ、ゾウムシ、ゾウムシ・・・養老先生の研究所には日本国中からいただいた(自分で採ったのも、もちろんありんます)ヒゲボソゾウムシが数万匹も。

ヒゲボソゾウムシ、ゾウムシ、ゾウムシ・・・養老先生の研究所には日本国中からいただいた(自分で採ったのも、もちろんあります)ヒゲボソゾウムシが数万匹も。

 帰ってきても、鎌倉の自宅には顕微鏡は置いてない。ただ野外にもって行くための、ファーブルという顕微鏡がある。これがあれば、おおかたのことはわかる。さっそく持ち出して、なにをもらったか、それを調べる。さすがにいろいろありますな。今年は私はラオスに二回も行って、ゾウムシを採ったのに、その私が採っていない種類がいくつもある。これだから虫はやめられない。だれも採っていない種類が、まだまだたくさんあるはずである。

 愛媛大学には、若い虫屋さんが大勢いる。教授の大林さんはまもなく定年だが、カミキリムシの専門家である。お父さんもカミキリムシの専門家だった。助教授の酒井さんは、シバンムシの専門家。こういう虫屋さんばかりのところに行くことは、めったにない。いつまで滞在していてもいいが、そうもいかない。

 こういう虫屋さんたちは、世界のあちこちに行く。だから世界のあちこちのゾウムシがある。それをみんな貰ってきたって、生きているうちに片付くはずがない。いくら私でもそんなムダなことはしない。ヒゲボソゾウムシとクチブトゾウムシだけ、抜く。抜くというのは、標本は針で刺して並べてあるから、文字通り「抜く」のである。

 こういうときは、至福の時間ですな。文献だけで知っている虫の、現物があったりすると、思わず声が出てしまう。アッ、いた! こうなると、野外と似たようなもの。まさに採集というしかない。

 酒井助教授はネパールで採集した標本を、いくつも持っておられた。私はブータンのを持っている。カククチゾウムシの、似たような違う種類がある。ロンドンの自然史博物館でネパール産のものをいくつか、見たことがある。これらには名前がついていなかった。この仲間は後翅がないので、土地によって強く分化するはずである。だからブータンとネパールほど離れていれば、種が違ってくる。標本が手に入れば、自分の手元で種の違いを確認できる。

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「自分で採る虫採り、人からもらう虫盗り」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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