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『はい、泳げません』からの大脱出
~人生で大切なことをスイミング教室で学ぼう

2008年1月23日(水)

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はい、泳げません

はい、泳げません』高橋秀実、新潮文庫、400円(税抜き)

 「あしたのジョー」の中に、少年院の独房にいる矢吹丈のもとへ、丹下段平がジャブやアッパーの打ち方を綴ったハガキを送り続ける逸話がある。最初は無視していたジョーがヒマをもてあまし、遊び半分に身体を動かしてみる。ハガキは、ボクサーとなる「明日」のための教本だった。

 子供だったワタシは「えぐりこむようにして、打つべし! 打つべし!」というハガキの教えとおり、勉強部屋をリングに見立てはイッパシのボクサー気取りになったことがある。ペン字から空手まで、添削の通信教育が流行りはじめた時代だった。

 ワタシもいくつか講座を受講したものの、どれもひと月と続かなかった。なんであんなものを? 申し込んだ動機さえ、今となってはクビを傾げたくなる。だから本書を読んで、びっくりするのだ。

 水が恐い。子供の頃からプールの授業のたびサボる口実を考えまくっていた、そして泳げずにいた四十男が、スイミング教室に通いはじめる。

 泳げなかった男が、泳げるようになる。本書は、たったそれだけのことを綴った一冊のノンフィクションだ。

 たったそれだけのことなのに、面白い。そこはかとなく感動的ですらある。

 様々な人たちが出てきては、著者に泳ぎについて、体験を語る。「泳げない」同輩としての同感であったり、泳げる人からの励ましや叱咤であったり。対話のテーマは「泳ぐ」の一点だけなのだが、ときに人生について語っているかのような充実がうかがえる。

 どのように、息継ぎすればいいんですか?

 著者の高橋さん、泳げないのは、息ができないのが根本問題だと思いこんでいる。いっぽう、競泳選手だった女性コーチの桂さんは、「泳ぐ状態を覚える」のが先決で、正しい泳ぎ方が身につけば自然と呼吸はできる。彼女は経験上、確信をもっている。だから、高橋さんの不安、なかなか水になれようとしないことが理解しづらいのだ。

 理解できないでいるコーチを前にして、高橋さんも負けてもいない。もともとが物書き、考えるのが仕事とあって、あれこれ理論付けしないことには、先に進めない。つまり、「言い訳」をする。

 だれだって、やればできる。泳げない人はいない。

 信念をもったコーチには、そんな高橋さんの姿はサボっているとしか映らない。口調も厳しくなる。

 高橋さんは、「泳げる人」には「泳げない人」のココロはわからないのだと、被害者意識を募らせ、しばしば自虐モードに陥ってしまう。ルポの卓抜さは、そんな自身のナサケナさを肩口から眺めるように、コミカルに綴っていることにある。

 もうひとつ。本書のいいところは、「教える人」と「習う人」、双方の視点から「泳ぐ」ということについて、あるいは「学習」の過程を余さずつぶさに、心理の襞まで記録されていることだ。

 あのときはこう言ったのに、すぐあとで、まったく違うことを言ったりして、どっちが本当だかわからない……。

上達を邪魔するそのひとこと

 しばしば、高橋さんは悩んでしまう。これだけなら、面白いルポでしかない。

 コーチは、各章のまとめの部分で、高橋さんが「もうやめたい」と苦しんだり、疑問だったこと、プールでわかりあえずにいたことについて、簡潔に一ページ分の「つぶやき」として整理している。

〈高橋さん、わたしが最初の日に、「泳げますか?」と聞いた時、「あ、あ、泳げる、かなあ」と曖昧に答えたでしょ。「泳げません」とはっきり言わなかったですよね。正直に言ってくれれば、方法はあったのに〉

 高橋さんは後に、そうだったかなぁと振り返っている。記憶にない、らしい。美人のコーチを前にして、格好をつけてしまったのかも。

〈高橋さん、「はい、わかりました」って言い過ぎだと思うんです。本当は、わかってないでしょ。泳ぎ方見てて、わかります。わかっていなければ、そう言えばいいのに〉

 「わかりました」は、高橋さんの口癖らしい。ふだんも、許してもらいたい一心で、つい口にする気弱さがあると本書で自戒している。

 的確にコンパクトで、厳しい「つぶやき」だが。〈それにしても、水がこんなにもこわかったのですね〉と、コーチは、高橋さんの記事を読んだ感想を記している。読者として、そこに、ホッとする。

 「浮こうとしてはいけません。力を抜けば、浮いてくるんです」と言ったかと思えば、「力強く」。「肩を回すだけでいいんです」と強調したあとで、「大切なのは手の平の向きです」と言う。

 どっちを信じればいいのか。高橋さんの眼で見ると、コーチの指導に戸惑うのもムリはない。

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