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遠方から集まった再生の担い手たち

新潟県・松之山【9】

  • 宮嶋 康彦

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2008年1月24日(木)

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 その手紙は東京都内の有名デパートにバイヤーとして勤める、木村義一さん(仮名・36歳)からだった。妻は投資ファンドの営業職という第一線で働いている。5歳の息子と2歳の娘がいる。その彼が“戸邊秀治という生き方”に共感し、百姓になろうとしている。

  一般的に推量すれば、なんの不自由もなく、ひたすら現代風のシアワセを享受できる“御身分”ではないか。なにが悲しゅうて未経験の百姓に席替えを望むのか…。

 ところが話をしてみると、彼の決意には微塵の甘えもない。自分の前に現出した道を毅然とした態度で見据えていることが分かる。過度の生産と無秩序な大量消費の世の中に疑問を持つようになり、人間の豊かな生活とは何か、という一点において思索を深めてきたという。そして今、30歳の戸邊さんが脱サラして自給自足の道を歩き出した時のように、高邁な理想を頼りに未知の領域へ漕ぎ出そうとしている。

36歳の男には自分の価値観に対する揺るぎない自信があった

 新しい地平を目指して笈(きゅう)を負うことに異を唱えるものではない。けれども、本をただせば当コラムがきっかけになっていることもあって、生唾を呑む思いで木村さんの考えに耳を傾けなければならなかった。なんといっても、農業は、道に行き詰まったり傷ついたり、戦線を離脱するビジネスマンの救済世界ではない。浅慮や一考を要することがあれば、その都度、振り出しに戻ることも提案しなければならないだろう。

 「良い商品を良いサービスで提供し消費者の方に喜んでいただく、ということを一義と考えてきました。けれども、そうした誠意を尽くそうと努力する一方で、無駄な消費を煽るような売り方をしてきたのも事実です。これまでは、立ち止まって熟慮する暇もなく、がむしゃらにやってきたんです。でも、そのことに気づき、考えれば考えるほど、今の仕事に納得ができなくなってきました」

 真っ正直に生きる、という衝動を押し殺しながら暮らすことに大きな疑念を持つに至った、と話す36歳の男の息遣いは、だからといって激することはなく、詠うこともしない。その話し方に迷いが感じられないし、余分の力がこもらない。

 そうした物言いを、はて、どこかで聞いたことがあるな、と記憶を遡ってみる。そう、戸邊さんの米を日本一高価な米として販売した、北川大介さんに通じることに思い至った。北川さんが戸邊さんの米を称賛した時の語り口に似ていた。2人に共通していることは、自らの価値観への揺るぎない自信である。

説得し切れない伴侶とともに戸邊家を訪れることに

 筆者は過去に多くのジャンルの人とまみえてきた。話を聞き、行動につき合い、人物を書き表し、ファインダー越しに穴が開くほど表情を凝視し、彼らの人格がフィルムに焼きつくよう念じながらシャッターを押してきた。不遜ながら、何事かを成さんとする人物の、真摯な姿勢の内側に潜む力量を、いつの間にか嗅ぎつける嗅覚を発達させた。そんな職業的経験から、戸邊さんと初対面した時と同様に…この人はやり遂げるだろうな…と直感するものがあった。  

 「自分の手で、自分の責任で、誇りを持って物づくりがしたい。もうすぐ40歳になります。いい人生の転換期と受け止めているんです」

 そこから得られる達成感を最上の幸福にしたい、と精神的な充足が得られなくなった今と、近い将来に開けるはずの展望を語るのだ。

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牛島 信 弁護士