古川日出男インタビューの続きです。
古川さんは、小説の修行をすることで、街の見え方が変わったと言います。
人ではない視点も、しばしば登場します。
そこで見える風景とは?
それは古川作品を読めばわかります。
いわゆる読書とは異なるインストール体験。
古川作品独特の視点が脳内をゆさぶる仕組みをお話しましょう。
(その1から読む)
あたしはごくありふれた
OLだった。
夕暮れの横断歩道で
ひとりの男の子に出会うまで。
融解する時間、
崩壊する日常。
そして――
「ママ」となったあたしの、
新しい世界が始まる。
「天地創造って、こんな感じ?」
最速・最強の東京湾奇譚、
ついに降臨。
古川日出男氏の最新刊
『ゴッドスター』(新潮社)1300円
「フォーカスした生き方」が消えている
柳瀬(日経BP社出版局 以下、Y) 『ベルカ、吠えないのか?』では犬、『LOVE
』では猫、古川さんの小説は、自然な形で動物の夢を借りますね。
古川 動物の目でものを見るのは楽しいけど、人間としては失格ですよね。時々、俺は人間失格だなと思う。
Y あの目はどうやって獲得したんですか。やはり小説の修行から?

古川日出男(ふるかわ・ひでお)氏
福島県郡山市出身。早稲田大学第一文学部中退後、編集プロダクション勤務。1998年『13』で小説家としてデビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞、および第23回日本SF大賞をダブル受賞。2006年『LOVE』で第19回三島由紀夫賞受賞。
古川 小説じゃなくても、何かに興味を持つと、世界にそれまでもあったけれど見ていなかった、見えなかった部分が浮かんできますよね。例えばお茶に興味を持つと、突然、電車の車内吊りのお茶の広告が初めて目に入ってくるみたいに。
ふと猫を書きたいと思うと、街中の猫が見え始めるとか、単にそういうことですよ。スポットを絞る、フォーカスするということ。
Y ということは、目から脳への信号として「見えている」ものは、当たり前ですが古川さんも我々も同じ。
古川 ですから、今はみんな「フォーカス」しないで生きているんじゃないですかね。
僕はフォーカスするのがすごく得意だし、その対象を切り替えられる。今はインタビューにフォーカスしているし、20分前まではイベントにフォーカスしていたし、ここに来る1時間前までもフォーカスしているし、戻ったら1時間で切り替えて明日の仕事のことを考えるし、そういうピントを合わせる作業をずっと日常的にやっているので。
Y 自分の集中する先や、視点を切り替えることが意図的にできる。
古川 そうですね。
Y 仕事の方法論として魅力的だと思うんですけれども。そういう感覚もやっぱり小説で学んだことなんですか。
古川 いや、小説を1個だけ書いているときはできないですね。いくつかを並行するようになると、切り替えをどうしても強いられますから。
単純にコンピューターに例えると、マルチタスクになっていくつかのソフト、アプリケーションを同時に起動させられるようになって、あとは起動中のアプリケーションのどれを前面に出すかという問題。だから今もこうやっていて休んでいるわけじゃなくて、明日書かなきゃいけない小説は、頭の中でもうちゃんと起動しているんですね。でも、フォーカスしているのは……
Y インタビューを受けるためのソフトが前面に出ている状態なんですね。でも、そんなことができるんでしょうか。
古川 人間の脳みそが動かせるのは1個のソフトだけじゃないですよ。同時にいくつも起動させておけるわけですよ。それができなかったら、腹が減ったという信号も届かない。実際、届かなくなる病気がありますよね。だから同時に何もかも来るようにしているんだけれども、そこを自覚すればいろいろな仕事が同時に行えるんだと思います。これはちょっと、ビジネス向けの話になってますね。
Y ありがとうございます(笑)。みんな1つのことに集中しているようでいて、何も見てないケースというのがすごく多そうですね。
古川 あると思います。
Y 例えば『LOVE』。東京という街の中に実はたくさんの河川がありますが、そこにいる生き物を見ている人はどれくらいいるか。。
古川 この個所は、書こうと思って目黒川に見に行ったら、5分ぐらいで見つかって。実際に川で見るとびっくりしますよね。「何、あれ、あのでかいモクズガニ」と。本当にでかいですよ、あり得ないぐらい。
Y あれは本当に見ちゃったんですか。
動物もそうでしたけど、古川さんの小説はご飯を食べるシーンがいつも気持ちよくて、読む方の気持ちが物語に入っていくとっかかりになりますね。ある種、「あ、これを食べたいな」というリアリティーを感じるんです。『ゴッドスター』のここがそうですね。
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