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人間は、記憶を「更新」していく生き物

  • 小橋 昭彦

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2008年1月29日(火)

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ムラからの手紙

 先日は、地域に伝わる注連縄づくりを、ぼく自身が「記録媒体」となって伝える覚悟をしていると書きました。もっとも、文化を伝えるにあたってたいせつなのは、記録そのものよりも、伝えられる場があるかどうかです。

 仮に百年後にぼくのクローンが博物館で注連縄をなっていたとして、それを「保存されている」と感じる人はどのくらいいるでしょう。その風景から感じられるのは、むしろ「失われた」という思いではないでしょうか。

 注連縄を飾る行事には、地域の人たちが自然環境をどのようにとらえ、どのように対峙してきたかが表れています。文化とは、人の暮らしの中で伝えられてはじめて、文化としての価値がある。ぼく自身を記録媒体にするというのは、いわば緊急避難にすぎません。本来ならば、文化が伝わる(再生される)環境を作ることこそ重要です。

 あなたは今大学で学んでいますね。それは人類の知恵を伝え、磨くための仕組みです。人類にとっては、百科事典や博物館よりも、学校教育という場を創造したことが、知恵を伝える上で大きなことだったのではないでしょうか。

 ひるがえって里山文化の場合を考えると、それが伝えられる場とは暮らしの中にほかなりません。しかし生活スタイルが変わってしまった今となっては、文化を伝えるための仕組みや前提の多くが、失われてしまっている。この村の人たちに百年前の暮らしをしてくれというわけにはいきません。新しい場、新しい仕掛けを作らないと、文化は伝わらない。

文化を伝える場とは

 そのためにどうするかということを、よく考えます。

 情報通信技術を利用してウェブサイトや動画など、誰かに伝える場を作るのもひとつの方法です。グリーンツーリズムを企画し、交流の中で再現するというのもひとつの方法。

 念のために補足しますが、記録や経験そのものが重要なのではありません。「正月前に親子で注連縄をなう」場が失われた今、その場の代わりに「ネットでの発信」や「ツーリズム」という場を作って、年長者と若者がともにものごとに向う場を作る、そうした継続的な場を作るための方法をどうするかという話です。「守ろう」「覚えよう」と呼びかけるのではなく、自然と守られるような、覚えたくなるような環境を作ることが求められている。

 そうした場を作るときに心がけなくてはいけないのは、同じ文化を伝えるのでも、場の作り方によって記録され再生される内容に差が生まれるということです。

 注連縄のない方にしても、神社などに奉納する注連縄は「三つ編み」にして形を整えるのですが、わが家で長くやってきたのは二つをないあわせる形式です。いわば簡易型ですが、家に飾るものですから、それで充分。とすると、同じ人にお願いして同じテーマの情報発信をするにしても、「神社に注連縄を奉納」というタイトルをつけたときと、「自家用の注連縄をつくる」というタイトルをつけたときでは、(あえて意識せずとも)違った注連縄がなわれることになります。

場が記憶の再生に与える影響

 同じようなことはぼくたちの記憶についてもいえ、ぼくはふだん、記憶の正誤に関しての議論はあまりしないようにしています。同じ過去を経験したとしても、その人の視点によって解釈が違うという理由がひとつですが、もうひとつの理由は、思い出される場によっても記憶は左右されるものだからです。

 多くの人にとって記憶というのは、地層のように積もっているイメージかもしれません。あるいは、タンスの引き出しに収められた思い出という宝物。しかし、少し考えてみればわかるように、「思い出す」とは、この瞬間に脳内で起こっている現在進行形の出来事にほかなりません。思い出とは、タンスの奥にある宝石のように過去に属する固形のものではなく、現在のこの身に関係する、その場その場で作り上げる粘土細工のようなものなのです。

 とすれば記憶もまた、再生される場の影響を受けて変化すると考えていいのではないでしょうか。そして、まさにその通りなのです。

 心理学者のエリザベス・ロフタスが、共同研究者パーマーと行った「自動車事故を再生する」有名な実験があります。1974年に言語関係の専門誌に発表されていますが、「言語と記憶の相互作用例」という副題の通り、言葉がいかに記憶に作用するかを実験しています()。

(※) Loftus, E.F. & Palmer, J.C. (1974) Reconstruction of auto-mobile destruction: An example of the interaction between language and memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 13, 5, 585-589, Oct 74

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