「人生の諸問題」

「クオーターバック」と「天秤打法」と「スイング」と

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2008年2月1日(金)

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小田嶋 今、岡が社長をやっている(注・TUGBOAT代表取締役社長)、というのは僕にとって、結構びっくりすることなんだよね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」)

 何で?

小田嶋 だって、そういうタイプじゃないもん(笑)。

 でも、会社の中では、僕が一番年上だから、しょうがないんだよ。

小田嶋 一番年上だから社長なのか。そうか。だって、岡は、そもそも親分肌というタイプじゃ全然ないわけよ。

 そうだよね。

小田嶋 それ以上に子分肌なんかでは金輪際あり得ない。強いて言えば、「自分肌」ぐらいでしょう。この世に我1人あり、我は行くみたいな、そんな感じじゃないですか。だから、誰かとちゃんと会社をやって、上司なり、部下なりという秩序が形成できるのかというのは、オレにとってかなり疑問なことだった。サラリーマンで会社にぶら下がって、何とかごまかしていくことは可能だとしても、会社をやれるとは、俺はとても思えなかったんだよ。

 TUGBOATには、上司とか部下とかはないんだよ。

小田嶋 じゃあ、わりと水平な関係でやっているのか。

 そうだよ。だって設立メンバーの4人は社員じゃないからね。株主ですから。

小田嶋 俺も一時期、株主会社をやっていたことがあるんだよね。

―― えっ?

小田嶋さんの「青年実業家」時代

小田嶋 ライターを始めたばっかりのころ。友達と3人で株式会社を作ったんですよ。全員役員で、だから、税金ばっかり払っていて、人から“愛国企業”と呼ばれていた。

 一体、誰と一緒に設立したんだ?

小田嶋 東大を出たやつと絵描きの息子だったやつと3人で、社長と専務と常務になって、赤坂の知り合いの事務所に電話だけ置かせてもらって。当時、ちょうど30歳のちょっと前。僕は、株式会社の専務で、事務所は赤坂だという、そういう青年実業家の時代があったの(笑)。

 でも、そのころって、株式会社の設立資金は1000万円が必要だったでしょう。

小田嶋 いや、200万円でよかった。その後すぐに1000万円になっちゃったんだけど。

 で、今は1円になったんだよね。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋 俺に本を書けって言ってきた銀行員みたいな人がいて、来年から資本金が1000万円になっちゃうから、今のうちに会社を作れってそそのかされたの。その人は、俺が発起人になってやるし、事務所も貸してやる。税理士もタダで回すぞ、と言ってきてね。彼の思惑では、我々を取り込んで、何か、もう少し大きいことをやりたかった。でも、その人は詐欺師みたいな人で、50億円も借金を作って、どこかに消えてしまった。

 うーん。それは消えるだろうな。

小田嶋 いや、ちょっとした人だったんですよ。(会社は)まだ登記上は残っていると思うんだけどね。

 どのくらい働いたのか。

小田嶋 3年ぐらい活動したかな。

 儲かった?

小田嶋 もう、全然、全然。3人で売り上げたのを足すと、結構税金を払うことになっちゃう。弁護士をやっている友達に聞いたら、お前、これは納税企業じゃないかって(笑)。

 でも、税金を納めるということは、利益が上がっている証だから、ちゃんと活動していたということになるんじゃないか。

小田嶋 そう。でも、会社を休眠させてフリーに戻った時、確定申告すれば、こんなに税金は戻ってくるのかと思いましたよ。

 節税どころか、増税しちゃったんだね。

小田嶋 社長と呼んでいたヤツが、東大を出たヤツなんだけど、そいつが見積もりが得意でね。ほら、俺たちのような文筆業の見積もりって、何の基準もないようなものじゃない? で、そいつが見積もりの場で何をするかといると、何もしない。うーん、と黙っているだけ。普段からすごく口の重いヤツで、相手が、どうでしょう、これぐらいで、と言うと、うーんと黙っている。うーんと言っていると、ギャラが上がっていくんだよ。別に交渉とか駆け引きでやっているわけじゃないんだけど、すごいな、こいつ、と俺は思ったね。

 黙ることって、やっぱり相手を凍りつかせちゃうからね。余計なことを言っている方がラクなところもあるよな。

小田嶋 黙るってある種の能力だな、って思ったよ。

 でも、その人はそんなこと考えてないわけでしょう(笑)。

「節税なんてくだらないことより、もっと仕事をしよう」

小田嶋 全然。というか、そいつはちょっと本当に変わったヤツで。専務と常務は、我々も、もう少し節税をしようじゃないかと。経費を使おうじゃないかと。そんなことをいろいろ言うんだけど、社長は、そういうくだらないことを考えるのはやめようよ、と言うような人で。節税のために、伝票を集めたり、レシートをどうかしたりするような労力があるなら、その分、仕事に傾けて余計に稼げば、そっちの方が生産的だろう、なんてことを言うんだよ。

 言われてうなずくようなお前でもないだろう。

小田嶋 ああ。ただ俺も、レシートを集めるようなことが恥ずかしくて。知恵を付けてくれる人がいて、給料を出す時に全部基本給にしちゃうと、すごい勢いで税金が取られちゃうよ、だから君たちの場合は基本給を少なくして、何とか手当てにした方がいいよ、とか、利益が上がってボーナスとか出すと、それは税金がかかることになるから、なるべく利益を出さないようにした方がいいよ、とか。で、社長は、そういうくだらないことをやるのはやめようよ、という話で、何だかあれでしたね。

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、サッポロビール、大和証券、富士ゼロックス、リクシル、NTT東日本、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中。近著に「ノンタイトル」(電子書籍)

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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