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あなたの上司が、こんな脳ではないことを祈ります~『戦争する脳』
計見一雄著(評:荻野進介)

平凡社新書、760円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年2月7日(木)

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評者の読了時間2時間35分

戦争する脳 破局への病理

戦争する脳 破局への病理』計見一雄著、平凡社新書、760円(税別)

 戦争は人類最大の狂気だ、とよく言われる。一体、その場合の狂気とは何だろうか。まさか戦争突入のきっかけを作った軍人や政治家が揃って精神病だったわけでもあるまい。

 俗耳に入り易い言葉は物事の本質を覆い隠す。「戦争=あってはならないこと」だから、考えなくていい、という思考が導かれるだけだ。そうではなくて、「ありえること」として、狂気の中身をちゃんと見ておくべきではないか。そんな問題意識から、戦争を引き起こし、遂行する狂気の解明を目指したのが本書、著者いうところの〈戦争に至る精神病理学〉である。

 著者は日本における精神科緊急医療の第一人者。自殺や自傷の恐れがある、他人への暴力行為が止まないといった、寸刻を争う処置が必要な重度の精神病者専門の精神科医だ。父親が旧軍人、戦後は陸上自衛隊の幹部だったことで、軍事と現代史に興味を持ち、門外漢という立場でありながら本書を書き上げた。

 「戦争を引き起こす脳」はさておき、「戦争を引き起こしやすい人」とはどういう人間か。著者によれば、それは自分に都合の悪い現実を否認し、見ようとしない人だ。

現場を「想像」できないリーダー

 例えば対米開戦の強硬論者のひとりに末次信正という海軍大将がいた。首相の近衛文麿が、米ソ両国との同時戦争の可能性、日本の航空戦闘力など、細部にわたった質問を投げかけたところ、彼はこう答えたという。

 「そんなこと一々考えていたら何もできはしません」

 こういう科白を吐く人、仕事の場面でも多くないか。

 否認の対象は、このような客観状勢だけではない。一番ないがしろにされがちなのは兵士の肉体性、彼らも生身の人間であるという事実である。人間だから当然、食べたら出す。フィリピン・レイテ戦の生き残り部隊を率いたある軍人によれば、食べ物の豊富さは必須条件だとして、それ以外に便所の整備具合が兵士の士気に大いに影響したそうだ。

 映画「硫黄島からの手紙」で有名になった栗林忠道中将も、自爆攻撃を硬く禁じ、兵士も一個の人間であることを無視しなかった稀有のリーダーだった。彼は残してきた故郷の妻あてに、自宅のすきま風の防ぎ方について何通も手紙を書いている。すきま風を心配するのは家族の肉体を思いやれるからである。その感覚を戦場でも忘れなかった。

 この二人の対極にいるのが便所もろくに整備せず、数十万の兵隊を餓死させた軍人たちである。なかでも、躁的な活動エネルギーが高い人はタチが悪い。ある壮大な計画を思いついたりしたら、頭の回転がどんどん速くなり、次々に行動を展開し、収拾がつかなくなるだけだ。

 ノモンハン、ガダルカナル、インパールという、第二次大戦中の三大負け戦すべてに責任を負うべき陸軍参謀がいるが、その人は真性の躁病だった。プライバシーを重んじる医者らしく著者はその名を明かさない。

脳は本来は「××をしない」のが役目

 さて、ここから話は脳の中身に入る。人間の行動を統御しているのが大脳皮質前頭前野である。未来予測と今後の行動計画に専門化すべく進化した部位で、著者の言葉を借りれば、ここが「戦争遂行脳」だ。

 意外なことに、この大脳皮質本来の働きは前向きな興奮・促進ではなく、逆に後ろ向きの抑制・制御だという。つまり「何々という行動をやらない」というのが本来の働きであり、それに打ち勝つためには、生命の維持や種の保存のため、といった別のエネルギーが必要となる。

 この段でいくと、仮に「戦争をやろう」という指令が脳に出た場合、「でも眠いからやめておこう」「死ぬのが怖いから我慢しよう」となるのが普通人だ。現実を否認し、目を背けながら突っ走ってしまう人はこのメカニズムが壊れているに違いない。

 また、行動計画作成に必要な情報は、大脳皮質前頭前野には含まれない。どこにあるかといえば、より後方にある情動の中枢に近い部分だという。そのため、情報を取り出すときに情動のフィルターを必ず通ることになる。つまり、人間の脳は、欲望や感情、好悪や愛憎抜きの純粋な合理的判断はできないのである。

 仮に、ブッシュ・ジュニアが本気でイラク戦争の目的を世界平和の実現においていたとしよう。

コメント4件コメント/レビュー

悲しいかな、私の上司は不毛な争いが好きだ、私の上司だけではない、我が社の管理職の多くは、部下に代理戦争させるのが大好きだ。課長たちは道楽気分でいい加減な仕事ばかりやって、それで問題が起きると部下を煽り他部門を煽って代理戦争させて本気で傷つけ合うよう戦わせ、当人は野次馬気分で外野から代理戦争を煽りまくる。こうやって、能力主義のカンバンの下に有能な部下が次々に潰されてゆく。これも大企業病がもたらす『戦争する脳』の一種ですかね?(2008/04/30)

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いただいたコメント

悲しいかな、私の上司は不毛な争いが好きだ、私の上司だけではない、我が社の管理職の多くは、部下に代理戦争させるのが大好きだ。課長たちは道楽気分でいい加減な仕事ばかりやって、それで問題が起きると部下を煽り他部門を煽って代理戦争させて本気で傷つけ合うよう戦わせ、当人は野次馬気分で外野から代理戦争を煽りまくる。こうやって、能力主義のカンバンの下に有能な部下が次々に潰されてゆく。これも大企業病がもたらす『戦争する脳』の一種ですかね?(2008/04/30)

戦争は特異ではあるが、日常の人間の行動と地続きで明確な境界線は無い。国家間の戦争でも大規模な戦闘・攻撃が行われている場合に、境界である宣戦布告が無いことを理由に戦争であることを否定する人はいない。情報と感情が切り離せないのは、感情の=食欲、恐怖、愛情が命を守り紡いでいく基礎的な仕組みであり、感情を通じた判断こそが生存に不可欠の実用的な判断システムだからだ。ある状態で正常とされる精神状態も、別の状況下では異常とされうる。戦争=精神異常という単純な話では無い。軍参謀に精神を病んだものがいたということより、それを排除できなかったという事実の方が興味深い。(2008/02/07)

この記事のまとめに、「戦場は兵士にとっての「職場」であり、職場は働く人にとっての「戦場」である」と書かれているが、軽軽しく定型的なまとめのフレーズに陥っているのではないか。この記事そのものが、そのように軽率に「戦場」や「戦争」という言葉を使ってはならないことを含意しているはずだ。なのにこの記事を書いた記者本人がこのようなまとめのフレーズを用いたことを疑問に思う。(他の記事で慣用的に使うことは構わないと思いますが)(2008/02/07)

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三品 和広 神戸大学教授