• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

世代を超えた共同体の「記憶」~『滝田ゆう傑作選「もう一度、昭和」』
滝田ゆう著(評:朝山実)

祥伝社新書、760円(税別)

2008年2月8日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間2時間00分

滝田ゆう傑作選「もう一度、昭和」

滝田ゆう傑作選「もう一度、昭和」』滝田ゆう著、祥伝社新書、760円(税別)

 たとえば、そうそう、夏に虫除けの蚊帳を張ったものだなぁ、と、ふいの一コマを目にして時間が引き戻される。

 あるいは、駄菓子。美味しいものでもなかったが、子供のころ、十円玉を握り締めては駄菓子屋に走っていった。親はあんまりいい顔をしなかった。

 時代は高度成長の入り口で、着色料や衛生面を気にかけるくらいには余裕を取り戻し、世間はあしたの希望に膨らんでいた。

 そしてさらに、いつでもほしいものが手に入る時代になってみると、こころのどこかがポッカリと空いてしまっているようで、落ち着かない。そんな空虚さを埋めてくれるのが、滝田ゆうの漫画だ。

 作者が亡くなって18年経ち、本の多くが入手困難となったいま、傑作選のかたちで復刊された。「三丁目の夕日」効果だろうか。戦争を挟んだ「昭和」の街角、食卓の騒がしい風景を描いた短編漫画が集められている。

 代表作の「寺島町奇譚」は、かつて玉の井遊郭のあった迷路の町で、スタンドバーを営む一家の物語。小学生の「キヨシ」の目線で、学校の月謝で玄米パンを買い食いし、親にバレやしないかとビクビクしたり、ダルマサンコロンダで路地を駈けてゆく子供の時間を切り取っている。これが、同時代を生きたわけでもないのに、なぜか懐かしい。

 いっぽうで、キヨシをすっぽりと覆いこむ、色町独特の客引きの風景、大人たちの艶やかなやりとりも、こまやかに描いている。

 すこし話は逸れるが、ある映画の撮影現場を覗いたときのこと。木々が生い茂る庭と縁側のある平屋を、スタジオの中に作り上げていた。

カメラには写らない場所で見たのは

 居間や台所の壁の裏側はベニヤ板なのだが、調度品にはどれも使い込んだ生活感があり、しばらくそこにいると、故郷にもどったかのような錯覚に陥ってしまった。

 びっくりしたのは、縁側の下だ。瓦や鳥かご、野球のボールなど、使わなくなったものが仕舞われている。放り込んだまま、忘れてしまったかのように。

 カメラが寄ったりしないかぎり、スクリーンを観ている人は、その正体に気づきはしないはずだ。わざわざアップにして意味づけるなんてヤボを監督もしないだろう。

 それでも、そこに小鳥が囀り、鳥かごを眺め、話しかけていた家族の記憶が刻み込まれている。そして、死も。

 美術の人は、物語を考えこんで、自然にそこに隠したにちがいない。丁寧な装飾にして、さりげない。映画の大画面は細部を映してしまうもので、こうした遊びがあってこそ、空間が息づいてもくる。

 滝田ゆうの絵も、瓦や鳥かごにあたる遊びが随所に利いている。だから、せっかちにスジを追おうとすると損をする。時間をかけて楽しむ漫画だ。

 たとえば、かまどのゴハンが炊き上がる湯気、仏壇のリンを鳴らす音、朝起きて、先にちゃぶ台を囲んでいる親たちに向かい、「おとうさん、オハヨウゴザイマス」と頭をつけ挨拶する。どれも、見かけなくなった景色である。

 変色した写真を見るような、これらの懐かしい場面の一つひとつを滝田はすべて記憶だけで描いたという。

 資料に頼ると、精密な複製に仕上げようとするあまり、「それっぽい」コピーにとどまるというか、奥行きに乏しい。レトロな町並みを再現した商業施設が流行りだが、懐かしさを抱いても、たいていすぐに飽きてしまうのも、そのあたりと関係するのだろう。

コメント0

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

もう中山素平のような人物が銀行の頭取という形で現れることはないだろう。

佐藤 康博 みずほフィナンシャルグループ社長