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本当の“底”から見上げる日本~『アメリカ下層教育現場』
林壮一著(評:柴田雄大)

光文社新書、740円(税別)

  • 柴田 雄大

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2008年2月12日(火)

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アメリカ下層教育現場

アメリカ下層教育現場』林壮一著、光文社新書、740円(税別)

 「格差社会」とさんざん言われてるが、それはだいたい所得の話で、教育格差、学力格差にはマスコミもあまり触れない。しかし、所得格差、地域間格差などと同じくらい、教育格差も深刻な問題だ。私立と公立、首都圏と地方など、授業や教員の質の差が、大学進学率などにおける差となって現れている。

 本書は米国における教育格差について、底辺に位置する者の視線で論じたものだ。著者は米国在住のフリーライター。メジャーリーグやボクシングなどの取材の傍ら、大学時代の恩師の薦めで、米ネヴァダ州リノの高校で「日本文化」の授業を非常勤講師として担当した。

 米国における学力格差は日本の比ではない。著者が週2回、2時間ずつ教壇に立ったのは、レインシャドウ・コミュニティー・チャーター・ハイスクールという高校だが、普通の高校とは少し違う。

 チャーター・スクールというのは、親、教師、地域住民などが州や学区の認可(チャーター)を受けて設立する公立校で、米国で1992年に誕生した。運営は設立申請を行った民間グループに任され、授業料は無料。地域の実情に合わせて、教師と生徒の結びつきをより密にする目的で全米各地に広まった。当時、米国の新聞は「荒廃する公立校を避ける親たちの解決策」と紹介し、注目を集めた。

 しかし、10年以上が経過した今、現実は当初の理想とかけ離れている。各地のチャーター・スクールは一般の公立校の生徒より学力レベルの低い、劣等生の集まる学校になっているのだ。

両親と暮らしている子どもは、ひとりだけ

 普通に授業をしても生徒はついてこられないので、「食品」という科目を設けてクラス全員でクッキーを焼いて食べたり、「演劇」の授業で実際に劇をやってみたり、生徒の興味を引くようなカリキュラムを設けている。著者の担当した「日本文化」も日本のアニメやマンガ、テレビゲームなどに関心を持つ生徒の受け皿にと、用意されたものだ。

 実際に教壇に立ってみて、著者はあぜんとする。始業から3分もしないうちに机の上でUNOを始める者、音楽を聞き始める者、小さな布ボールを蹴り始める者など、授業どころではない。トイレに行った者は二度と戻ってこない。全員をはり倒して常識を教えたいと思うが、米国でそんなことをすればすぐに逮捕され、保釈金で講師のアルバイト代など軽く吹っ飛んでしまう。

 授業を続けていくうち、著者はだんだん米国における下層教育の裏側がみえてくる。チャーター・ハイスクールに通う子供たちの大半は、家庭環境に問題があった。クラス19人のうち、両親とともに生活している生徒はわずか1名。両親が育児を放棄したため里親に育てられた子も多かった。

 本書によれば、米国の離婚率は50%を超えている。生活に追われるシングルマザー、シングルファーザーは育児や教育に手が回らず、子供は小中学校時代から学校をさぼりがちになる。酒やドラッグにおぼれる親も少なくない。半身不随の母親と二人暮らしの生活費を稼ぐため、コーヒーショップで時給8ドルのアルバイトをする生徒もいる。日本でもアルバイトをする高校生はいるが、生活費を稼ぐためというのは少ないだろう。

 教育格差は、そのまま将来の所得格差につながる。

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