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見切るという言葉、辞書に無し!『東京大学応援部物語』
~9回表、0対19でも応援し続ける理由

2008年2月20日(水)

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東京大学応援部物語

東京大学応援部物語』最相葉月、新潮社、400円(税抜き)

〈こんなやつら、見たことない──〉

 ノンフィクション作家の最相葉月さんは、最初は、なるべくなら彼らに近づきたくないとの思いを抱いたはずだ。

 でも、それ以上に、好奇心がまさってしまった。もし、「いやだなあ」というマイナスモードを優先したままであれば、本書が生まれることはなかったし、あの東大にこんなにも愚かしくも愛すべき人たちがいたことを、多くの人が知る機会もたなかったろう。

 連戦連敗の野球部と、スタンドでの応援に4年間を燃焼させる応援団員11人。この本は、彼らの一年間に付き添ったノンフィクションだ。

 「物語」として本書が成立しえたのは、ひとえに「東大」というブランドがあらばこそ。

 エリートのポジションを手にしながら、いまどき、なんで応援団? しかも鉄拳制裁や不条理な体罰、こんなことして何になるのという日々のトレーニングにも耐え、いざハレの応援にのぞめば、肝心の野球部は何十連敗。まるで応援のし甲斐がない。

 なのに。
 にもかかわらず。
 どんな負け試合であろうとも意気消沈することなく、「早稲田を倒せー オー」と声を張り上げる。踊る。3回にして0対11、ああーきょうもか、という展開だとしても彼らの士気はいささかも落ちることがない。

〈早稲田を倒せだって。本当にまだ倒せると思っているのか。それが観客の本音だったのではないだろうか〉

 著者は、たまたまスポーツ雑誌にコラムを書くため、東京六大学野の東大対早大を観戦に神宮を訪れた。そこで見たのは、上記のごとく、雄叫びをあげる東大の応援団だった。

「なんでこんなこと…」

 9回表、0対19。大差を付けられての東大の最後の攻撃は、飢饉に奇蹟を祈願する村人を思わせる。そして著者は、これが長い取材のはじまりだったと振り返っている。

 まったく理解しがたい相手を目にし、首をかしげながら幾日も、季節は移ろい、見守り続けるうちに、そう、遠い存在と見えた彼らの何に惹きつけられてきたのかを知るにいたる。ロードムービーにも似たノンフィクションでもある。

 「なんでこんなことやってんのかなあ」と、4年生のリーダー長はつぶやく。外から見たら11人は同じ学ランではあるが、間近に接すると、ひとりひとりは違っている。

 社会に出たあとの人脈をアテにして入部したもの。自己犠牲の精神に憧れたもの。名門野球部にいたが、肘を痛めて高校を中退し、三年遅れで東大に入ったもの。韓国からの留学生に、アニメ・アイドルおたく。彼らにだって、迷いはある。いや、いっぱいある。

 応援とは、試合を見ることではないのか。プレー中、グラウンドに背を向け続けることは応援といえるのか?

 著者の疑問に、「ええ、矛盾なんです」ため息をつきながら、先のリーダー長が答える。「ただひたすら走り回って、ばかやってる。なんでこんなことやってんだって」。

 自己満足ではないか──。不安にとらわれることがあると、胸のうちをさらす。まわりからは冷ややかな目で、自分たちが見られていることも理解している。狂信者のイメージにはほど遠い、拍子抜けするほど、ふつうの人たちだ。

 東大応援団でも「体罰」は必要悪として組み込まれている。なくそうとするものもいるが、なくすことはできない。

 独特なのは、下級生に落ち度や怠慢さがうかがえたときに、罰を被るのは彼らの上級生。会社なら管理者責任というところか。

 黙って、体罰を堪える先輩を見て、下級生は猛省する。不合理でアナクロ。しかし、責任を取るべき人間が保身に走り醜態をさらす風潮の中では、彼らの「ばか」は貴重だ。すくなくとも、おまえらがしっかりしないからだと後輩にハラを立て、恨みに思うようなメンタリティの人間はここには登場してこない。それは、彼らが「東大」という、ほとんど勝ちを手にすることのない野球部と対をなしていることと無関係ではあるまい。

 卒業する部員に、著書は質問をしている。応援部にいたために失ったものはありますか?

 意外にも彼はしばらく考えこんだ。就職試験の面接で、4年間で「何を得たか」と質問されることに慣れていただろうが。

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