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見る目の数だけ、世界がある~『もしもあなたが猫だったら?』
竹内薫著(評:清田隆之)

中公新書、720円(税別)

  • 清田 隆之

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2008年2月15日(金)

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もしもあなたが猫だったら? 「思考実験」が判断力をみがく

もしもあなたが猫だったら? 「思考実験」が判断力をみがく』竹内薫著、中公新書、720円(税別)

 今はあまり見かけなくなったが、以前、テレビでこんな番組をよくやっていた。それは、違う文明に生きるアフリカの部族を日本に連れてきて、そのカルチャーギャップに驚くさまを描くといったようなものだ。「田舎者を笑う」みたいな視線で申し訳ないなと思いつつも、電車やエスカレーターにビビリまくる彼らを見て、ついつい大笑いしてしまったものだ。

 それはさておき、本書の著者は以前、『99.9%は仮説』をものして話題になった科学作家だ。その冒頭では、イキナリ「飛行機はなぜ飛ぶのか? 実はよくわかっていない」なんて議論が展開されている。翼で「圧力差」や「空気の渦」を作り出し、それが揚力となって機体は飛んでいる――。こういった“科学的説明”がまことしやかに語られているが、それはさまざまな経験則による推測にすぎず、決定的な根拠はないというのだ。

 この話は刺激的だった。というのも、「科学には意外と“人間味”がある」という発見があったからだ。正解はひとつ。すべては理屈で説明できる――。そんな科学にまつわるイメージがくつがえった。

 さて、本書のテーマは「思考実験」だ。これは「もしも~だったら?」といった具合に脳内で行う様々なシミュレーションのこと。『99.9%は仮説』では、世間の常識の「不確かさ」を論じることによって「大体は仮説である」と訴えた。本書ではそれを一歩発展させ、「今度は自分で仮説を立ててみよう」というわけだ。

 タイトルにもなっている「もしもあなたが猫だったら?」というのもそのひとつ。ただし、ここで語られるのは、例えば『吾輩は猫である』のように猫の「視点」に立ってみようというものではなく、「視覚のメカニズム」に関する問題だ。

〈猫は、哺乳類で、錐体細胞は二つしかありません。だから三原色じゃなくって二原色の世界に生きている。そうすると、我々より、もっと色の区別がつかない世界に棲んでいるわけです。しかも、視力もそんなによくない〉

 錐体細胞とは色を感知するアンテナのようなもの。人間にはこれが3つあって、それぞれ赤、緑、青の光の波長に反応し、その組み合わせによって色を識別する。猫にはこの錐体細胞が2つ。従って認識できる色がはるかに少ないというのだ。

絶対的な世界はありえない

 しかし、だからといって機能的に劣っているというわけではない。視野が広く、暗い場所でもよく見え、動体視力もかなり優秀だという。夜も行動し、動く獲物を捕らえる猫のライフスタイルに適した目というわけだ。

 もしも我々がこの猫の目でもって世界を眺めたら、今とはかなり違った景色に見えるだろう。それは色あせた写真のように映るだろうし、信号機だって意味を失効してしまう。あの素早く走るゴキブリも、まるでスローモーションのように見えるかもしれない。

 つまり、我々が普段見ている世界は、絶対的にこういう姿をしているわけではなく、人間の目を通して見るからそう映るだけの話なのだ。猫には猫に見える世界がある。鳥にだって、ゴキブリにだってそれぞれの世界がある。これは何も視覚に限った話ではない。聴覚、嗅覚、味覚、触覚を含め、知覚システムのあり方ひとつで世界は様々な様相を呈するのだ。

 こう考えると、同じ人間同士とて、世界を同じように知覚しているとは限らないかもしれない……と思えてくる。ひとつのモノに対し、それを好む人と嫌う人がいる。これが単なる感性の差異ではなく、まったく別のモノに見えている結果だとしたら……。

 このように、「もしも猫だったら?」という一見突飛な仮説も、ひとつずつ思考のプロセスを重ねることによって、思いもよらなかったような考えに行き着く。単なる妄想と切って捨てることもできようが、これが思考実験の醍醐味であり、「頭を柔らかくするための訓練」になるというのだ。

 本書の副題は「『思考実験』で判断力をみがく」。『99.9%は仮説』の副題にも「思いこみで判断しないための考え方」とある。ここから見えるのは、「常識や思いこみを疑い、自分のなかに様々な可能性や選択肢を用意し、そこからよりよい判断を導き出そう」というメッセージだ。

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